―わたし好の新刊書評―      2007年2月

『ザリガニがきえる!?』
              (いきものだいすき) 谷本雄治著  ポプラ社
 ザリガニは,今の大人が子どもの時代にはわんさといたが,どうして急
にいなくなってしまったのだろうか。著者の谷本さんはそんな疑問を持ち
ながら各地のザリガニを求めて歩く。
 最初は,少年時代のザリガニつりの思い出話から,ザリガニの種類の
話にはいる。ふつうよく見かけるのはアメリカザリガニでこれは外来種。
しかし,今でも北海道や東北地方には日本固有のニホンザリガニもいる。
古文書によると,「ザリガニ」=「退る蟹」とある。「退る蟹」とはよくいった
ものだ。そのほか,ザリガニには二種類の外来種もいる。ザリガニの種
類や特徴を一通り話したあと本題の話にはいる。
 近年,普通の田んぼや畦でのザリガニは非常に少なくなっている。こ
れはどうしてだろうか,その謎を求めて著者の谷本さんは全国を歩く。ま
ず,考えられるのはコンクリートで固められた用水路が一つの原因と見る。
しかし,ドジョウや蛙がまだ多くいる田んぼでも,ザリガニがほとんど見つ
からない現場を見て著者は疑問に思う。ザリガニが急にいなくなった原因
は用水路のコンクリート化だけだろうか。読者のみなさんはどんなことを原
因として考えられるだろうか。
 この本は,文字のポイントも大きく下田智美さんのイラストも効いて読み
やすい。まず,子どもが手に取る本である。      
                           2006,12刊  1,000円
 
『窒素の物語』  カレン・フィッツジェラルド著 藤田千枝訳 大月書店
 〈窒素〉という気体は,〈酸素〉や〈水素〉のように学校での実験にもあまり
お目にかからない。でも,考えてみれば空気中の3/4は窒素だし,生命の
生みの親とも言える〈たんぱく質〉を作っているのも窒素,植物の肥料として
活躍しているのも窒素であるのに,〈窒素〉について総合的に書かれた本は
あまりない。
 いったい〈窒素原子〉はどのようにして科学者に発見されてきたのだろうか。
また,どんなところでわたしたちの生活と密着しているのだろうか。この本で
は,そのような窒素に関する疑問に簡潔に要領よく解説している。
 人類が最初に窒素化合物を利用していたのは〈硝石〉という。硫黄とまぜる
と爆発することを偶然に見つけた中国の人たちが,盛んに爆薬として利用し
ていたらしい。中国では今も爆竹が盛んなのはそのような伝統があるからと
のことである。なるほど。
 窒素が空気中の気体として存在していることに人類が気づいたのは18世
紀になってから。ろうそくの火を消す性質のある気体なので,最初は「よごれ
た空気」とみなされていたとはおもしろい。
 窒素の研究が本格化したのは19世紀の初期になってから。〈一酸化窒素〉
〈二酸化窒素〉〈硝酸〉などの窒素酸化物から〈窒素原子〉の正体が解明され
ていく。
 生命維持を掌る窒素,バクテリアによって分解されていく窒素酸化物,そし
て爆薬の話へと続く。爆薬をTNT火薬などと呼ばれる意味も解ける。
 一見地味な〈窒素原子〉であるが,窒素原子は見事に地球上で循環してい
る。そして,人類にとってかけがえのない原子であることが読み取れる。                                                     2006,12刊 1,800円  
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