―わたし好の新刊―      2007年3月

『川の王さま オオサンショウウオ』(ドキュメント 地球のなかまたち) 
                    
 広島市安佐動物公園編  新日本出版社
 オオサンショウウオは中国地方の山間部に比較的多く棲息している国の特別
天然記念物である。謎の多いこのオオサンショウウオの研究にずっと取り組んで
きた動物園がある。それは広島市にある安佐動物公園である。この本は,その安
佐動物公園の長年の研究成果がまとめられている。
 最初に,大きなオオサンショウウオの写真が出てくる。3000万年の昔から生き
続けている「生きた化石」と言われているだけあって大物だ。ずんぐりした体にぬ
めぬめした体,怪獣のように不気味と言う人もいるくらいである。35年も前から安
佐動物公園のオオサンショウウオ研究が始まった。
 さて,オオサンショウウオは8月から9月にかけて川岸から1mほども奥の〈部屋〉
で産卵するのだという。しかも,ヌシ(オス)のいる巣穴にメスとオスが次々と入り
乱れ〈群れ産卵〉をするという。この産卵現場の観察に安佐動物公園のスタッフが
初めて成功した。非常に珍しい写真が紹介されている。さて,メスが卵を産んだ後
にもオスの大役が待っている。さすが〈ヌシ〉と名付けられるゆえんだ。
 オオサンショウウオの繁殖行動や巣穴の秘密をつきとめた安佐動物公園スタッフ
はオサンショウウオの人口繁殖に挑戦する。見事に成功させ,安佐動物公園では
毎年のようにオオサンショウウオが繁殖しているという。やがて,この研究成果が
地域の河川改修に生かされ,地域ぐるみのオオサンショウウオ保護活動につなが
っている。                          2007,1刊  1,400円

『消えたエゾシロチョウ』(「たくさんのふしぎ」2007年3月号)
                          竹田津 実文・写真   福音館書店
 「きたきつね」などでおなじみの竹田津実さんの不思議なチョウのレポートである。
今回登場するチョウは,日本では北海道にしか棲息していないエゾシロチョウ。本
州などでよく見るスジグロスジチョウを一回り大きくしたチョウだ。竹田津さんは15
年ほど前からこのエゾシロチョウの不思議な行動にとりつかれた。この本は,その
後の継続的な観察記録を元に,北の草原で繰り広げられている小さなチョウの変
わった習性を美しい写真で紹介している。
 初めに,エゾノコリンゴの木に鈴なりに留まって翅を休めているチョウの写真が出
る。まるで満開の花だ。緑の木に白いチョウが羽を休めている様は異様に見える。
エゾシロチョウはあまり遠くに飛ばずに一本の木に集団で棲み着くのだという。その
チョウたちが一斉に交尾し産卵すると,産み付けられた卵の数はもう大変に数にの
ぼる。それらの卵が一斉に孵化すると木の葉はどうなるだろうか。
 途中で冬眠した幼虫たちは春になると一斉に動き出しもりもり新芽を食べつくす。
やっと芽生え出したエゾノコリンゴの木はひとたまりもない。たちまち丸裸だ。しかし
またリンゴの木も負けてはいない。このエゾシロチョウたちを追い出す術を心得てい
るというからおもしろい。ある時,竹田津さんは10万と数えられるエゾシロチョウが一
斉に死に絶えている現場に直面する。このことがまた種の保存につながっていくの
だろうか。華麗に飛び交うチョウにかくされた自然界の絶妙のドラマを見る思いで読
み終える。           
                                2007,3刊  700円

                 「3月新刊案内」