―わたし好の新刊―      2007年4月
『世界一おいしい火山の本』     林 信太郎著   小峰書店
 みなさんは「火山の本」」というと,どんなイメージを持たれるだろうか。噴火,
溶岩,マグマ,火砕流,泥流,水蒸気爆発など,専門用語が次々と出てきて,
なにやら難しい本というイメージがあるのではないだろうか。その点,この本は
気楽に読んでいける。著者の林信太郎さんは火山学者ではあるが,小学校の
授業に出向くなどして,子どもたちにもわかる努力をしておられる。その成果を
この本で披露されている。
 噴火を伴う火山現象は,いわば温度と粘性や組成の関係で様々に変化する。
著者は,火山現象をできるだけ直感的に会得させようと,チョコレートやココア
を使う模擬体験を試みられている。その努力は評価したい。しかし,この試みが,
大エネルギーを放散する自然現象をとらえるのに成功しているのかどうか。これ
は,子どもたちに聞かないと分からない。中高校生のみなさん,ココアやチョコレ
ートで火山の模擬体験はいかが。
 大人の私には,そのようなココアやチョコレートによる模擬体験の話はあまり好
感が持てない。むしろ,著者が様々な体験から語られていく火山のなまなましい
話の方が興味深い。火山現象は一種の物理現象である。むしろ,その基本となる
溶解や粘性,爆発の条件など,日常的な現象と結びつけて語る方がよほどわかり
よい。中でも最も大切なことは「水」のイメージ化である。水蒸気爆発,火砕サージ
など「水」の怖さを知らない限り理解が難しい。
 文章は平易で,火山の入門書としては評価できる。ココアやチョコレートの話をと
ばしても,興味深く読んでいける。       
                                     2006,12刊  1,500円
 
『メダカ観察事典』(自然の観察事典) 小田英智文・草野慎二写真 偕成社
 メダカについて総合的にうまくまとめられている。なんといっても発生や誕生の写
真がリアルで見応えがある。初めに「春の小川」の風景が出る。残り少なくなったこ
ういう風景がほんとうにメダカにとっても人間にとっても貴重な空間である。
 「メダカの求愛行動」の写真がいい。オスの背びれにくびれがあり尻びれが広い
のは,交尾の時にメスを抱きかかえるためという。なるほど,うまくできているものだ
と感心させられる。卵の発生から稚魚誕生までの一連の写真もさすがによく撮れて
いる。受精卵には〈油滴〉と称される〈油の球〉が付着している。〈油滴〉は,卵の中で
いったいどういう役目をしているのだろうか。
 成魚になったメダカはスイスイとのんきに泳いでばかりいられない。たくさんの水中
生き物たちが待ち受けている。タイコウチやヤゴ,ゲンゴロウなどに捕らえられるメダ
カも貴重な食物連鎖のつながり担っている。近年ヒメダカが市販されているという。
純粋の遺伝子を持つクロメダカが少なくなってきているとのこと,こんなところにも人
工飼育の弊害が出ているのか。卵胎生で勢力を広げているカダヤシばかりがメダカ
の敵ではないようだ。メダカの生育にいちばん弊害になっているのは近年の水田や
水路の〈改修=圃場整備〉にある。メダカを初めとする小動物が人と共存できる里山環
境についてもう少しつっこんで書いて欲しい。もう,メダカは絶滅に瀕している。子ども
たちの手が届かない現実になりつつあるのに。               
                                  2007年2月刊 2,400 円 
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