新刊案内               2007年5月

『ワシ・タカの巣』(森の写真動物記3)   宮崎 学著   偕成社
 野生動物写真家宮崎学さんが,長年にわたって撮りためられたワシ・
タカ類の営巣や子育ての写真を一冊にまとめられた。ワシ・タカといった
猛禽類の巣はふつうなかなか人目にふれない。著者は,身の危険も感
じられる撮影困難な場所にもレンズを向けて,迫力ある猛禽類の子育て
の姿をとらえている。
 まずは,断崖絶壁の岩場に巣作りするイヌワシの写真である。長さ600m,
高さ300m,上昇気流の舞う岩場のすき間でイヌワシは悠然と俯瞰してい
る。2例目は,高さ50mはある川べりの岩場にいるチョウゲンボウの巣。3
例目はこれまた断崖絶壁の海岸に突き出た岩肌に巣をかまえるハヤブ
サの姿。ロープを使って海に乗り出しての撮影だという。命をかけての撮
影だ。精悍なハヤブサの姿が鮮明に写されている。
 次は深い森の中で樹上に作る猛禽類の巣である。まずは,ワシタカ類
でも最大級のクマタカの巣。続いて,ノスリ,ツミ,ハイタカ,オオタカと樹
上の巣が続く。広い草原の中に巣をつくるワシ・タカもいる。最後は樹洞
に巣をつくるフクロウ。巣の中が鮮明に写されている。なんと,巣を作る前
から樹洞の中にカメラをしかけておいたのだという。巣作りの場所をあらか
じめ予想しておくのはプロの業だ。
 この本は全ページに緊張感が漂う。危険な場所で,相手に気づかれな
い方法で,鮮明にレンズでとらえる著者の執念と技術はプロ中のプロの
技だ。この本を見ているとそのような人間の〈巧みさ〉も伝わってくる。 
                              2007,03刊 2,000円
 
『鳴く虫観察事典』(自然の観察事典40) 小田英智文・松山史郎写真 偕成社
 このシリーズの特徴は,身近な生きものの生態を見事に写し出してくれ
ることにある。この本は,身近な昆虫の微細な器官を大きく写しだして,そ
の不思議さを堪能させてくれている。ページをめくるごとに「そうか,この虫
の器官はこんなにうまくできているのか」と,しばし驚かされる。
 最初は,キリギリスやコオロギの〈鳴き方〉が取り上げられている。それ
ぞれの羽の構造が見事な「発音鏡」付きになっている。たんに〈ヤスリ〉だ
けでは大きな音は出ない。なるほど〈共鳴器〉付きなのだ。コオロギやキリ
ギリスの〈鼓膜〉は足に組み込まれているという。「えー。足にこんな〈鼓膜〉
がかくれているのか」と驚く。昆虫たちは,触角や尾毛などと合わせてあら
ゆる器官で危険を察知するらしい。
 小さな生きもので疑問なのは〈どんなしくみでオスとメスが出会うのか〉で
ある。たんなる偶然の出会いだけでは確率が悪い。鳴き声の他に,特有の
臭いでメスを引き寄せるという。野原で微細な臭いを嗅ぐ能力なんてどこに
具わっているのだろうか。次は,見なれたスズムシの交尾の写真。え? な
んだ。白い玉は?「精球」という〈ボール〉をオスからメスに受け渡ししている
のだという。なんで,そんな〈高等?な技〉を使うのだろうか。次ぎに出てくる
コオロギの産卵管の構造がまた異彩だ。「管」といって〈管〉ではない。「なん
と見事な構造なんだろう」と感心させられる。ツユムシなどの産卵管はまるで
〈のこぎり〉だ。こんな器官でイネ科の葉の中に卵を産み付けていくという。
すばらしい〈技能〉の持ち主だ。
 「進化の奥深さ」をしみじみと感じさせてくれる本である
                            2007年3月刊 2,400 円

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