―新刊―        2007年6月

『砂漠化ってなんだろう』(岩波ジュニア新書)   根本正之著 岩波書店
 日本の子どもたちは,〈砂漠〉という言葉から,どんな場所をイメージするだろ
うか。おそらく,アラビアンナイトに出てくるような悠然とした風景を頭に描くの
ではないだろうか。それも一つの側面だが,より深刻な問題が世界の〈砂漠
地帯〉におしよせてきていることを本書は伝えている。
 まず,初めに砂漠の定義から始まる。〈砂漠〉など定義するほどでもないと思
われるかもしれないが,なかなか一口にまとまらないらしい。最終的には「気
候上の変動や人間活動を含むさまざまな要素に起因する土地の劣化」とある。
砂漠とは土地の劣化なのだ。土壌の流出,河床の堆積,植生多様性の減少,
土地の塩類化などが含まれる。〈砂漠化〉とは,多くの耕作地や放牧地,湿潤
地の〈劣化〉という意味になる。〈砂漠化〉は,直接に世界の食料問題に影響
してくる。その〈砂漠化〉された土地の面積は今世界に拡大しているという。事
態は深刻である。
 第2章の「砂漠ってどんなところ?」で砂漠植物の話が語られている。これが
意外とおもしろい。〈乾性植物〉の発芽と芽生えへの適応力はすごい。「植物
もここまで適応するか」と感心させられる。
 そのあと,本題である「人間活動が砂漠化を招く」「湿潤地域でも〈砂漠化〉
はおこる?」「砂漠化した土地の緑化を考える」と話は続く。世界各地の〈砂漠〉
の現状から,地球規模での〈砂漠研究〉の必要性が語られている。
                           2007,02刊 780円

『アリクイサスライアリ』(たくさんのふしぎ)  橋本佳明著 福音館書店
 日本では想像も出来ない生き物の生死をかけた闘いが日常的に起きている
熱帯雨林帶の話である。この本は,熱帯雨林帯に棲むアリの生態を報告して
いる。著者は、長年熱帯雨林帶でアリの研究をしているという。
 アリの種は日本では250種ほどだが,世界には10000種はいる。著者の通う熱
帯雨林では一本の木でも200種のアリがうごめいているという。
 ページをめくると、まあなんという数だろう、木の葉を覆い尽くすアリの数、何十
万といるとのこと。黒いアリ、金色のアリ、赤い腹を抱えたアリと色も形もさまざま
だ。この本は,なかでも凶暴なツヤヒメサスライアリの集団を追っていく。ツヤヒ
メサスライアリは,巣を持たず、隊列をつくって獲物を襲撃してくらすアリだ。ほ
かのアリをおそって食べてしまう〈アリ喰いアリ〉でもある。小さなアリを襲ったと
ころで,こんなに大群が食られる食料は確保できるのだろうか。いったいどのよ
うにして他のアリを襲うのだろうか。
 ツヤヒメサスライアリの軍団はやがて樹の中にある他のアリの巣に入り込む。
巣の中にいたアリの兵アリたちは侵入者のアリを手当たりしだいにかみついて、
頭や脚を切り落としていく。アリどうしの壮絶な戦いだ。
 アリ喰いアリの交尾の習性もおもしろい。「メスアリが交尾をするのは一生に一
度だけ」とのこと、メスアリは「オスからもらった精子をおなかにためておき、それ
を一生涯つかって、卵を受精させる」という。
 熱帯雨林の静かな森も、少し足下に目をやると、そこは生き物たちの生死をか
けた争いの場でもあることがよく伝わってくる。  
                            2007年6月刊 700 円 

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