―わたし好の新刊―       2007年8月
『モグラの生活』(たくさんのふしぎ)  飯島正広文・写真 福音館書店
 この本では,写真家の著者が長年観察してきたモグラの姿が紹介されてい
る。最近は里山の動物に関する本もよく出版されているが,モグラの生活の
実態をここまで広く記録した本はあまりない。この本は月刊誌ではあるが,
近年の写真技術でモグラの生活が克明に描きだされている点が特徴である。
 著者は畑で捕らまえたモグラの行動観察から始める。飼育箱にモグラを入
れ,えさや水も入れてビデオカメラで一日のモグラの動きを記録する。1日24
時間の内,モグラの睡眠時間はどれくらいと思われるだろうか。なんと,食べ
ては寝て,また食べては寝てと,一日の内18時間は寝ている。モグラは,食
べてるか寝ているかどちらかの生活だ。一日に体重の半分近くの獲物を食
べるのに寝てばかりだ。
 次に著者は観察用のトンネルを作る。トンネルといっても中が見えるように
削ってある。トンネルを半分切り開いた形になっていて,モグラは外に出よう
と思えばすぐに出れる構造である。でも,モグラは外に出ないという。もぐらは
「体になにかふれてないとこわい」のだそうだ。おもしろい〈習性〉である。やが
て著者は,田畑にある自然のモグラトンネルに小型カメラをしかける。モグラの
トンネルはいろんな動物たちのメインロードになっている。
 さらに著者は見つけにくいモグラの巣を探し求める。もぐら名人の案内でつい
にモグラの巣をつきとめた。モグラの巣のありかはキノコからわかるというから
おもしろい。やがて,巣の中に内視鏡が入る。いたいた,もぐらの赤ちゃんだ。
このような映像は本邦初公開ではないか。        
                                2007,08刊 700円
 
『偏光板とあそぼう』(サイエンスシアター)
                     
板倉聖宣・田中良明著      仮説社
 
仮説社のサイエンスシアターシリーズ「電磁波をさぐる」の第3巻である。第1
巻の「電磁波を見る」を読んでいるとよりよく理解ができる。もちろん,予備知
識なしでもこの本は十分に楽しめる。タイトル名の通り〈偏光板とあそぼう〉な
のだから。
 巻末に偏光板が添付されているので,まずはそれを「型紙」通りに切って,
それぞれの偏光板を机の上に置きながら読み進めればいい。
 「偏光板を重ねたら」あたりから,徐々に話がおもしろくなる。少し偏光板の
実験になれた頃「液晶の発見」という読み物がある。近年は各所に液晶が使
われている。「物質は,〈結晶=固体,液晶,液体,気体〉と四態変化する」とい
う。〈液晶〉という結晶構造に光を偏光させるなぞがひそむ。ここで著者は,「2
枚の偏光板で光が見えなくなるしくみ」について,より原理的な図解を提示して
いる。従来の図解とは異なっている。偏光板はある方向の光を吸収するという
のが著者の主張だ。
 次に,「自然の中の偏光」の話に入る。かなり以前から氷州石(透明方解石)の
ふしぎな性質は知られていた。ここでも,方解石や偏光板を使っての実験がある。
一方,身近な自然界にも偏光現象は見られる。まず,水面やガラス面での光の
反射がある。これらは釣人や写真家ではすでに知られていて反射をふせぐ器具
も使用されている。他にも,物質のゆがみを調べる器機や岩石の結晶を調べる
顕微鏡などに応用されいる。 最後に,光の偏光をうまく取り入れて位置情報を
交流しているミツバチの話がある。「ミツバチの不思議な方向感覚の話」は昆虫
のすぐれた機能を堪能させてくれる。
                                 2007,06刊 2,000円
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