―わたし好の新刊―       2007年10月
 
『バナナ』(だいすきしぜん)   天野實指導 斉藤雅緒絵 フレーベル館
 幼児の科学絵本として定評のある「キンダーブック」のリライト版である。この
シリーズには「好奇心のこたえる」「実体験のきっかけをつくる」「美しいリアルイ
ラストレーションや写真で驚きと感動を伝える」とある。「バナナ」という,もっとも
身近な植物に好奇心の炎が広がる。
 「みなさんの たべている バナナのおおくは、にっぽんより ずっと
  みなみの あつい ところで つくられています。あつい ところには…」
で,次ページにつづく。おいしそうな熱帯のフルーツがたくさん描かれる場面に
なる。
そこで,つぎのことば
「でも、バナナは、ここに ある ほかの くだものとは ちがう ところが あ
りますよ。それは…」
と書いて,また次ページに続く。次ページには果物の断面が美しく描かれている。
みんないかにもおいしそうな実ばかり。そこでまた質問である。
「バナナには たねが ありません。でも、たねが ないのに どのように 
ふえるのでしょう。では、バナナが できる ところを みに いきましょう。」
で,また次ページに続く。「きのように みえますが バナナは おおきな くさです。」
とある。バナナ畑で,だんだんと実をつけていくバナナの様子が描かれていく。
問いかけながら場面を展開していくなど,工夫がこらされている。親子の会話が
聞こえてきそうな本である。               2007,08刊 1,000円

 
『校庭のざっ草』      有沢重雄さく 松岡真澄え  福音館書店
 野草や雑草はそのままでは子どもたちの興味に結びつかない。
 この点を克服するために著者はいくつかの工夫をこらした。まず,一つは校庭と
いう狭い範囲にエリアをしぼったことがあげられる。子どもたちにとっては日常のエ
リアだ。二つめは,本の内容を極力平易に,そして単純化していることだ。1972年
に出た甲斐信枝さんの『ざっそう』(福音館書店)を思い起こさせる。三つ目は,「名
前を知ること」に焦点をしぼったことがあげられる。
 「〈校庭でピンクの花〉というよりも〈ホトケノザ〉というなまえを知ったら,その花は
  もうじぶんのともだちのように感じませんか」
と著者は語りかける。確かに,名前は親しくなる第一歩だ。かといって,ただざっ草
の写真と名前を並べられても一向に興味がわかない。著者がめざした四つ目の視
点は,名前とともにそっとそのざっ草の特徴に目を向けさせていることだ。それぞれ
の絵に一言,二言,見所が書かれている。「なるほど,このざっ草はハートの形の実
をつけているな」「こっちのざっ草はほそ長い実をつけているな」と〈ざっ草の顔〉がわ
かる。それでも,ざっ草に目を向ける子どもはそうはいない。大人だってそうだ。道ば
たのざっ草よりも派手な栽培植物に目がいく。では,ことさらざっ草などに興味のない
人に,ざっ草の扉をたたいてもらうにはどういう手だてがあるか。それには,まず美し
いざっ草の姿を知ってもらうことだ。この本の絵がすばらしい。パラパラと眺めている
だけでざっ野草の美しい世界が広がってくる。 

                                  2007,07刊 1,500円

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