―わたし好の新刊―       2007年12月
 
『亜熱帯の森』    宮崎学文・写真 偕成社 
 『鷲と鷹』(平凡社),『けもの道の四季』(平凡社)など,数々の野生
動物の生態写真集を出している宮崎学さんが,今度は南の島,西表
島や沖縄本島の森にカメラをかついで訪れた。亜熱帯の島に繁殖する
生き物たちのレポートである。
 まず,宮崎さんは西表島に生息するカンムリワシの生態を追う。島と
はいえ,ハブが生息し,シダ植物が繁茂するジャングル,単独侵入は
危険この上ない。そこに,宮崎さんはテントを構える。ついに,念願の
カンムリワシの飛ぶ姿を見つけ,さっそく,木に登って来る日も来る日
も観察を続けたという。木の枝に板を敷き,コンロやラーメンを持ち込ん
での長期観察である。ついに,カンムリワシの巣のありかをさぐりカメラ
に収める。見事な雛鳥の写真もある。カンムリワシは卵を一つしか産ま
ない。カンムリワシの子育ての様子が写真と共に記録されている。貴重
な記録だ。
 次は,見事なイリオモテヤマネコの写真が出る。撮影は自動カメラだが,
長年の宮崎さんの勘と経験から,けもの道をたんねんにさぐりあててて
の成果である。イリオモテヤマネコの子どもたちもお遊びにやってくる。
イリオモテヤマネコが命をつないでいることが証明されている。
 次に,宮崎さんは沖縄本島の〈やんばるの森〉に向かう。さっそく,色
鮮やかなヤンバルクイナの写真が飛び込んでくる。最後の解説で,宮
崎さんは訴える。
 「暴風は森の健康を守るために必要な荒療治,しかし,人間による無
責任な破壊はとりかえしのつかない破壊だ」と。       
                              2007,10刊 2,000円

 
『雑木林で虫さがし』   河野修宏絵  文化出版局 
 文化出版局は『どんぐりノート』や『まつぼっくりノート』など,今までにも
味わいのある本を出してきている。今回のこの本も,著者は異なるが,
克明な描写と淡いタッチで自然の良さを十分に引き出している。
 この本に出てくる昆虫は,カブトムシ,クワガタ,カナブン,カミキリムシ
など親しみのある昆虫十数種に限られている。それぞれ2ページ見開き
に,成虫,幼虫,さなぎ,卵など,いろんな情報が,美しいイラストと文で
紹介されている。文は,字体や色を工夫することによって,最小限の情
報,いくらか知りたい情報,くわしく知りたい情報など,段階的に視覚に
うったえるようにデザイン化されている。読み手の興味関心に沿って気
楽に読める。
 例えばカミキリムシの項はこうである。
 まず,初めに大きなシロスジカミキリの成虫がいくつか目に入る。大き
な目,大きなあごのある顔,長い触角もクローズアップ。最初のゴチック
文字には
 「なんでも切ってしまうペンチのような大あごのもち主カミキリムシは
「紙切虫」  とも「髪切虫」とも書かれています。」
とだけ書かれている。なるほど,髪を切るのでカミキリムシかと関心。
次に目につくキーワードは,大きな目,力強い大あご,きゅうばんのよう
な足の先,つりざおのようなとても長い触覚,黄色のもようがある前ばね,
などである。これらの言葉に思わず興味をそそられる。眺めているだけ
でも楽しい本である。
                           2007,7月刊 1,300円
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