―わたし好の新刊― 

   20083

『カタツムリ』  草野慎二・栗林慧写真  リブリオ出版

 カタツムリは子どもたちにもなじみのある生きものだが,くわし
い機能はあまり気がつかない。そんな,カタツムリの風変わりな機
能をこの本は教えてくれる。この本は二人のベテラン写真家がカタ
ツムリの体のつくりや生態を的確に記録している。

 カタツムリは「巻き貝」のひとつで,サザエなどのように海がふ
る里とある。海から飛び出した変わりものの巻き貝が陸上に上がっ
たのがタニシやカタツムリだという。カタツムリの種類は日本でも
700種がいるというから驚きだ。カタツムリにはそんなにも種類が
いるのだろうか。

 カタツムリは梅雨の季節の代名詞みたいな生きものだが,意外と
雨は苦手らしい。〈つの〉の先に着いている目を大切にしていると
か。すごいのはカタツムリの口で,見事な機能を備えている。おろ
し金のようなあごと舌(歯舌)でキュウリの皮をすり取っていく。
まるでブルドーザーだ。当然だが,排泄口や呼吸穴もちゃんとつい
ている。どこだか見当がつくだろうか。

 おもしろいのは交尾の仕方。というより,カタツムリの体は〈雌
雄同体〉で個体による雌雄の区別はない。それで,お互いに生殖器
を相手側に挿入して,自分の精子を相手側に送っているという。精
子のやりとりでみんなが〈平等〉に産卵する。おもしろい習性であ
る。今度カタツムリを手にしたらじっくりと体を眺めてみたい。

                          
  2008,1  2,000

                                

『コウノトリがおしえてくれた』 池田啓著  フレーベル館

 コウノトリはかつては,日本の各地にも生息していた。しかし,
明治以降は兵庫県・豊岡市のみでの繁殖となっていた。昭和
30年頃
までは,「田んぼで働く農夫とコウノトリのすばらしい光景」が見
られていた。しかし,その後の大規模な区画整備や農薬の影響で,
他の生きものと同様コウノトリも急減し,ついに絶滅寸前になって
しまった。 

 コウノトリがいなくなってしまった環境異変に豊岡の人々も気が
ついた。「なんとかしなくては!」の気持が多くの豊岡の人々の心
に持ち上がった。住民たちの有志が「コウノトリをそっとする運動」
「どじょう一匹運動」などの活動を始めた。やがて,大々的なコウ
ノトリ飼育施設や研究棟が設けられ,本格的な野生復帰の研究が展
開されるようになった。この時,
1999に著者は研究員としてコウノ
トリ研究施設に赴任した。

 以来,〈野生復帰する〉という難しい目標をかかげて研究スタッ
フは日夜研究に励んだ。地域の大人や子どもたちも「コウノトリを
育む農法」,「田んぼの学校」等の保護活動に取り組んだ。いくつ
ものドラマをくりかえし,ついに,豊岡の空に五羽のコウノトリが
放鳥される時が来た。大きな羽を悠々と広げ豊岡の空にコウノトリ
が舞い上がった。

 その間の苦労やドラマがこの本に込められている。地域住民と研
究者が一体になって野鳥の野生復帰に取り組んだ貴重な記録である。
                   
2007,11月刊   1,600
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