―わたし好みの新刊― 

          20085

ハートのはっぱ かたばみ 』 
             
多田多恵子ぶん 広野多珂子え 福音館書店

 ごく身近な雑草であるかたばみ,しかし花や葉っぱも小さく地味で,こと
さら意識していないと目にもとめない草である。その小さな雑草の不思議さ
と魅力をやさしい語り口調で紹介している。絵を書いた広野さんが折り込み
ふろくに書いているように,この本を見た子どもたちは,きっと道ばたに咲
いた小さなかたばみをいとおしく思うに違いない。

 はじめの頁に「わたしは かたばみ。/ ちいさな くさです。/たぶん
 みなさんの すぐ ちかくにも すんでいます。/ わたしを さがして
ください。」と,
誘いのことばとともに小さなかたばみの絵がそえられてい
る。きっと,子どもたちは,どこかで見たことがある草だぞと,心をくすぐ
られるに違いない。

ページをめくると,ぱっとかたばみのはっぱの絵が出る。「かたばみの 
めじるしは ハートの はっぱ」と,かたばみを見る目のつけ所が書かれて
いる。きっと,子どもたちも「そうか。ハートの草をさがせばいいのか」と,
好奇心をくすぐられることだろう。

いろんな場所でのかたばみ探しをくり返しながら,だんだんと,かたばみ
のふしぎな世界に誘いこんでいる。雨の日にそっとはっぱを閉じているかた
ばみ,立派な根と,よこへよこへと茎を伸ばしている絵は,ふだん気がつか
ない世界を見せてくれる。また,「すいものぐさ」と呼ばれているはっぱの
ふしぎさや,おもしろいたねの習性など,遊びの相手としてのかたばみ紹介
もある。なかなか楽しそうな本である。        
2008,4  390                  

                               

『ミクロにひそむ不思議』(岩波ジュニア新書)
               牛木辰男・甲賀大輔著 岩波書店

 最近の電子顕微鏡の発達によって,ミクロの世界がつぎつぎと身近になっ
てきている。電子顕微鏡は,もともと物質の微細な構造を研究するための道
具で,研究目的以外には縁遠い存在であった。しかし,ミクロの構造を造形
美として見てみると,なかなか多様で,だれもが自然界の造形の不思議さに
魅了させられる。この本では,日用品から動植物,わたしたち身体の構造ま
で,多彩なミクロの〈模様〉を見せてくれている。パラパラと写真を見てい
るだけでも楽しめるミクロの世界である。

 最初に,最近の電子顕微鏡の解説がある。ここは読み飛ばしてもいいが,
走査型と呼ばれている顕微鏡の魅力を知ると,なおさら各写真のすばらしさ
が納得できる。

 続いて各分野の写真が紹介されていく。「身近な生活用品のミクロ」では,
繊維の写真がさまざま紹介されている。和紙やティシュペーパーの繊維はな
るほど見事にからまっている。ヒノキ,キリ,ナラなど,木材の違いもくっ
きり。星砂と呼ばれている有孔虫の形もさまざまだ。「食べ物」の項でおも
しろいのはジャガイモやサツマイモのデンプン粒である。ひとつひとつの細
胞にこんなにぎっしりデンプン粒がつまっているとは,さすが食べ物の王様
だ。なんといっても異様なのが「虫のミクロ」の顔々。昆虫たちの様々な
〈素顔〉を楽しめる。「からだのミクロ」の写真は驚きの連続だ。気道内の
繊毛細胞はまるでイソギンチャク。人間の身体もなかなかのもの。    
                       
  2008,2   780 
                         (西村寿雄)

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