―わたし好みの新刊― 

       20086

オリーブの絵本 (そだててあそぼう) たかぎまさと編  農文協

この〈そだててあそぼう〉シリーズ特徴の一つに「歴史や文化や先陣の知

恵を発見」と書かれている。トマトやサツマイモなどどの野菜や果物にも美

味しい食べ物へと人類の知恵が積み重ねられてきた歴史がある。この本に取

り上げられたオリーブは,オリーブ油の発見によって,民主主義と原子論を

生み出したギリシャ文明発祥の基となった。この事実をまず子どもたちに知

ってほしい。簡単ではあるが,最初のページに「オリーブは平和、勝利、光

のシンボル」と題して解説されている。オリーブ油はすでに紀元前数百年,

食用や医薬用の他に,灯りとして利用されたことがギリシャ文明発展に大き

く寄与した。国連旗にはオリーブの葉がデザインされ,オリンピック勝者に

はオリーブの冠で祝福されてきた。オリーブは人類平和の象徴ともなってい

る。

そのようなことに思いを描きながら,この本の栽培方法によってオリーブの

木を鉢にでも植えてみたい。オリーブの樹の特長や油のしぼりかた,油の効

能などが書かれている。オリーブもずいぶんと品種改良がすすんでいる。オ

リーブの種も多い。「鉢植えで育ててみよう」という項では,鉢植えの仕方

や管理の仕方などていねいに書かれている。

世界の平和を夢を見ながら,オリーブの鉢植えをやってみるのも楽しいに違

いない。                                                               

                               

『光る原子、波うつ電子』     伏見康治著  丸善株式会社

 著者の伏見康治さん(20085月逝去)は,敗戦後に活躍した理論物理学者

の一人である。当時は,原子物理学という庶民にはほど遠い学問の世界に生き

る人という印象が強かった。その伏見康治さんがなんと戦時中に,楽しい原子,

電子に関する話を雑誌に書かれていた。このような科学読み物が戦後の出版ブ

ームの時になぜ世に出なかったのかおしまれる。今回,有志のご努力でその話

が単行本として発行された。

 飛び交う分子/燃える分子/原子建築/震えるエーテル/流れる電子/波

うつ電子/光のつぶて/光る原子/原子模型/原子アンテナ,という興味の出

そうな項が並んでいる。原子,電子のイメージをやさしく,時には対話風にユ

ーモアも交えて語りかけている。

「この空気が粒々の分子からできているとしたら、すぐ起こる疑問はそんな粒

々がどうして空気を通して向こうの物を見るときの邪魔にならないのかという

ことでしょう」と問題の提起から始まる。さて,みなさんはどのように解答さ

れるでしょうか。また別項では

「ある程度温度が下がったとき、どうして気体の分子は凝結して液体となり固

体となるのでしょうか」と問いかけて,だんだんと〈原子建築〉の話に誘い込

んでいく。また「針金の中を電気が流れるというのはどういうことなのですか」

と中学生風の質問/「水道管の中を水が流れるように、電気が流れているのさ」

/「ではどうして針金を切ったときに(電気は)漏れないのですか」等の問答

から,電子の話に誘い込んでいく。

 原子・電子の話は今では〈常識の科学〉になっている。中高校生以上の読み

物として机上に置いておきたい一冊である。 

       2008,1   1,800  (西村寿雄)  

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