―わたし好みの新刊― 
                              2008年9月

 『こおいむしのこそだて』(かがくのとも9)
                        吉谷昭憲作 福音館書店


  最初に,かつてはどこにでもあった里山風景が描き出される。ため池
の中にはどんな生き物がいるのだろうか。メダカ,アメンボ,マツモムシ,
ミズカマキリ......,小さな生き物のオアシスだ。背中に小さな卵を背負っ
たコオイムシもちらほら泳いでいる。
 なかでも,卵を背負ったコオイムシの姿が奇異に感じられる。どんなふ
うにして卵を背負うのだろうか。どんなふうにして子育てをするのだろうか。
 やがてコオイムシの産卵の話に進む。まず,背中に卵をのせているコ
オイムシはオスなのかメスなのか。読者のみなさんはどう思われるだろ
うか。
 じつは,卵を背中にのせてせっせと子育てにいそしむのはオスだとか。
 メスがオスの背中に卵を産みつけていくのだそうだ。メスは
 「こうびをおえると たまごを ひとつ うむ。また こうび。また たまご。
 こうびの たびに たまごを うむ。」
 とある。一度の交尾に一つの卵をオスの背中につけていくという。な
んとも奇妙な習性である。でも,これが確実に子孫を増やす方法なのか
もしれない。メスはオスの背中に卵を生んであとはどこかへ消えてしま
うという。子育てはオスまかせという生き方も動物界ではよくあること。
メスの天国みたい。
 淡いタッチのせんさいな絵が心地よく目に飛び込んでくる。 
                             2008年9月 410円

 『恐竜と歩こう!』(足跡化石の発掘と研究)
                            石垣忍著 童心社
 著者の石垣さんが海外青年協力隊員としてモロッコに行かれたのが
1982年,モロッコの博物館で友人進められて始められたのが恐竜の足跡
研究の初めだった。現地でたくさんの恐竜の足跡に出合い本格的な研究
を始められる。石垣さんの研究が日本のゾウなどの足跡研究のきっかけ
にもなった。石垣さんは日本に帰っても恐竜研究の夢を捨てきれず,高
校教員を辞して林原自然科学博物館の研究員として勤められる。そこで
モンゴルを舞台に恐竜研究を続けられ多大な研究成果を上げられていっ
た。
 この本は,そうした石垣さんの体験を元に,子どもたちに恐竜の足跡
研究の楽しさを伝えようと企画されたものである。体裁も,石垣さんが
写された写真を中心に足跡化石の研究の様子が語られていく。たかが足
跡,されど足跡である。足跡から,恐竜のさまざまな姿が描き出される。
どれくらいの大きさの恐竜か,どんなふうに歩いていたのか,集団でい
たのか等々。
 後半に,最先端の恐竜研究の実際が紹介されていく。写真以外に,細
かなスケッチも重要になる。化石を含む地層の綿密な調査も必要になっ
てくる。なにしろ,目の前の事象から類推していく学問であるだけに細
かな情報の収集が基礎になる。ロマンに満ちた研究である。子どもたち
も楽しんで読んでくれるだろう。
                              2008,6刊 1,800円  

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