―わたし好みの新刊― 
                              200901                               

『光のスペクトルと原子』  板倉聖宣・湯沢光男著  仮説社

この本は,仮説社のサイエンスシアターシリーズ「電磁波をさぐ
る編」の最終巻である。

 光のスペクトルを通して原子の存在や,宇宙の彼方まで見通せる内
容になっている。

 最初に,光のスペクトル見るための〈簡易分光器〉を作る。本に
付録としてついているホログラムシートを使って作る分光器で,本
文にある型紙にそって組み立てられる。作り方もていねいに書かれ
ている。とてもよく見える〈分光器〉ができあがる。

〈分光器〉ができると,次々と書かれている〈問題〉にそって予想
をたて,〈実験〉をしながら光の性質をひもといていける楽しい本
である。

 まず見るのは,太陽からくる光のスペクトルだ。「分光器で太陽
の光を見たら,どんな色(スペクトル)が見られると思いますか」
という〈質問〉。どんな色に見えるのだろう。
4人の子どもたちの
意見を読みながらいろいろと想像する。分光器で太陽光をさっと見
ただけで,青,緑,赤がきれいに見える(注意深く見るともう少し
分かれている)。なんときれいな色だろう。この光の帯のことを
「光のスベクトルというのです」とここで教えられる。さて,これ
からいくつもの〈問題〉が続く。「今度は,白熱電球の光をこの分
光器で見ると…」と出る。ここでも,登場する
4人の討論を読みな
がら,予想→実験と進めていける。さらに,虹の話や光の三原色の
話,蛍光灯の話,アルコールの火の話から,輝線スペクトル,炎色
反応へと話は進む。ここまでくると〈原子〉が見えてくる。「太陽
と星のスペクトル」の話で終わっている。各スペクトルのカラー版
もつけられている。
 自作の実験道具を使って,科学の世界を十分に堪能できる本であ
る。

                          
2008,12   2,000

世界を動かした塩の物語』マーク・カーランスキー作 遠藤育枝訳 BL出版

この本は,塩をめぐる文化史・戦略史の海外版である。はじめに,
〈塩が、いくつもの戦争や革命をひきおこし,経済を左右してきた〉
と書かれている。塩が,いったいどんな戦争や革命に利用されてき
たのだろうか。

 海外では陸地に塩が埋没している場所も多い。中国・四川省では,
埋没している岩塩から塩水をくみ上げ,同時に出てくる天然ガスの
火で沸騰させて効率的に塩をとる作業をしていた。紀元前
250年頃の
話である。塩はすでに産業として生産されていた。

 野生の動植物を食べていた狩りと採集の時代は,人間の体内には
塩が自然に取り込まれていた。しかし,人間が定住し始めた時から
塩は別に採取する必要に迫られた。塩はやがて支配者の〈道具〉に
されていく。塩の支配権を握った中国の王は万里の長城を築きあげ
た。権力をにぎるエジプト王朝は塩を使ってミイラを作らせた。か
のローマ帝国も塩の値段をコントロールすることで支配力を強めて
いた。塩の支配からのがれてインド独立運動につながった。塩はさ
まざまな権力によって支配されてきた。
 「塩をふりかけるときには、思い出してください。わたしたちは、
 塩がなければ生きていけないことを。そして、あなたが手にして
 いるその石が、長いあいだ世界の歴史をつくってきたのだという
 ことを。」

と書いてしめくくっている。
 塩が古代から人々に利用されてきた重みが伝わってくる。
                     
   2008,09   1,600

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