200902                               

           ―わたし好みの新刊― 

      
『キャベツにだって花が咲く』
(光文社新書)   稲垣栄洋著  光文社

 副題に「知られざる野菜の不思議」とある。この本は,日常的におなじみの野菜に
植物学的,歴史的視点をあてたもので,ちょっとした〈知的クイズ〉が楽しめる。日
々目にする野菜の〈植物としての素顔〉を思い起こさせてくれる。

 第1章「野菜に咲く花、どんな花?」では,さまざまな野菜の花を紹介してくれて
いる。「野菜に花が咲くの?」と思う人には楽しい読み物となるにちがいない。人間が,
それぞれの植物の幼い時期に〈野菜〉として収穫してしまうから本性を見失ってしまう。

第二章「植物のどこを食べている?」も興味のある内容だ。そんなのは知らなくても
一向に困らないが,ちょっと知ると野菜の〈素顔〉がみえてくる。

第三章「野菜はどこから来たのか?」も興味深い。「日本原産の野菜にどんなもの
があると思いますか」と問われているが,はたしていくつあると思われるだろうか。ス
ーパーなどで目にする野菜で日本原産のものは,ジネンジョやフキなどの一部で,大半
は外国原産である。世界
8大文明地が野菜の原産地となっているという。しかも,もと
もとすぐに食べられるものは少ない。それぞれの地で長い栽培の歴史をくぐりぬけて,
今の私たちの口に届いている。まさに,人類の進化と共に食用に進化してきたものばか
りだ。 

 第四章「「ちゃんと野菜を食べなさい!」では,人類の進化の過程を追いながら,人
間は野菜をとる宿命を負わされている生きものであることを説いている。この一冊で野
菜に興味が湧くと,少しは野菜嫌いも少なくなるかも知れない。 
                               
2008,04  740

『もしも原子がみえたなら』(いたずらはかせのかがくの本)板倉聖宣著 仮説社 

この本は,1971年に〈いたずらはかせのかがくの本〉シリーズ(国土社)の一冊として
出版された本の改訂版である。その後絶版になっていて再版が望まれていた一冊である。

科学の基本は〈目に見えないものに想像をこらす〉ことにある。空想をこらし,仮説と
実験をくりかえすことによって,〈すべてのものは原子でできている〉という概念を科学
者は作り上げてきた。今や,すべての科学研究の根底に原子・分子の概念がある。いわば
〈原子・分子の概念〉は最も基本的な科学概念となっている。

しかし,今も小学校では原子・分子の教育はカリキュラムには取り上げられていない。
子どもたちには難しいという理由である。しかし,本当にそうであろうか。著者たちが提
唱する仮説実験授業という教育プランでは早くから「もしも原子がみえたなら」のプラン
(授業書)が開発されて,多くの学校で授業が行われてきた。その結果,小学校
1年生から
も大歓迎を受けている。それは,見えない世界を空想することがとても楽しいからだ。

そのプランのもとになったのが本書である。この世の空気がどのように見えるか,絵本

として家庭やグループでも楽しめるように工夫されている。絵本を読み終わる頃,子どもた
ちはもう〈水分子の飛び交う世界〉を頭に描いているに違いない。

原子・分子の絵を見ているだけでも楽しく読み進められるが,立体的な分子模型があると
さらにリアルに空想することが出来る。今回の本では,その分子模型の入手法も書かれて
いる。あなたも原子・分子の世界に仲間入りしませんか。

     2008,11   2,200

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