―わたし好みの新刊―
2009年03月
『いのちの木』 ロシェル・ストラウス著 的場容子訳 汐文社
―もしも地球の生きものが一枚の葉だったら―と副題に書かれてい
る。地球上の生きもの分類と系統の姿を一本の樹木にまとめ,それぞ
れの〈葉〉のつながりや量を視覚的に見えるように工夫された絵本で
ある。
最初に「いのちの木ってなんだろう」と問いかけている。
「いのちの木って、どの部分もたいせつなんです。葉っぱが一枚
ちぎれてしまっただけでもさあ大変。枝が一本病気になったり、
ぽっきり折れてしまったりするともう大事件です!木ぜんたいに
影響がひろがります。
それでは、わたしたち人間は、いのちの木のどのあたりにいて、
木にどんな影響をあたえているのでしょうか?いのちの木の近く
までいって、観察してみましょう。」
とある。そのあと「いのちの木」の姿が一つ一つ解説されていく。
最初は「五本の枝」が紹介される。「モネラ界」「菌界」「原生生
物界」「植物界」「動物界」の〈枝〉である。それ以後は,それぞれ
の「界」の解説に入る。それぞれの「界」(種)が「いのちの木」の
どの部分を占めるのか,そしてどれくらいの量なのか,感覚的に分か
るように絵が添えられている。
「動物界」はさすが「いのちの木」の大半を占めている。そして,
「無脊椎動物」,「脊椎動物」→「魚類」,「鳥類」,「は虫類」,
「両生類」,「哺乳類」と出て,人類の位置が読み取れるようになっ
ている。生態系の豊かさを強調し,多様な生きものが生きていけ
る環境に目を向けようと呼びかけている。
2008,11
『0.1mmのタイムマシン』須藤斎著 くもん出版
― 地球の過去と未来が化石から見えてくる ― と副題にある。
この本は,顕微鏡下でしか見ることが出来ない微化石,珪藻の化石研
究物語である。珪藻そのものは古くから地層の研究対象にされてきた
が,著者はその中の不可解な形をもった珪藻に目を付ける。
ふつうは珪藻は,中心部に細かな網目模様を見せる。しかし珪藻の
中にはいくつか,ほぼ丸い輪だけが見えて中の模様はぼんやりとしか
見えない不可解な珪藻がある。その珪藻がどうやらある地層の中に大
量にまじっていることに気づいた。それは,じつは栄養がなくなった
状態の珪藻だった。このような珪藻は〈休眠胞子〉で,著者は〈お休
みケイソウ〉と名付けて注目した。
この本は,いままでだれも手がけていなかったこの〈お休みケイソウ〉
の研究物語でもある。著者は,この〈お休みケイソウ〉がある時代の
地層に爆発的に増えていることをつきとめ,そのナゾ解明に動き出す。
ところが,なにしろ世界で初めての研究なので,まず〈お休みケイソ
ウ〉の分類から始めなければならない。これがまた大変。よく似た細
かな形を丹念にスケッチして〈お休みケイソウ〉の一つ一つを分類し
ていく。光学顕微鏡と電子顕微鏡を駆使して一つ一つ特徴を調べてい
く。なかなか根気のいる作業だ。
やがて,〈お休みケイソウ〉の研究成果を携えて北極海の掘削航海
に参加するチャンスがやってきた。北極海海底地層の研究から,地球
のなぞ解きに研究の巾を広げていく。この本は,こうした著者の研究
物語でもある。 2008,11 1,400