―わたし好みの新刊― 

      201001

『モマの火星探検記』       毛利 衛 著   講談社

宇宙飛行士毛利衛さんの創作読み物だ。宇宙飛行を終えられた毛利衛

さんが,宇宙や地球の未来についていろいろ考えられたことがらが,

ストーリーの背景になっている。火星への探検飛行を通して,ドラマ

チックに場面は展開していく。

2033年,いよいよ火星へ向かっての旅立ちである。

「窓の外はあっという間に紫から紺へ、そして真っ暗闇へとその色を

変えていった。やがて、わたしたちのからだを押さえつけていた、力

持ちの透明人間のようなGがすっと消え去り、かわりにあのなつかし

い感覚、自分から重さがなくなっていくあの感覚が訪れた。」

月の中継地点で火星船にのりかえる。いよいよ宇宙空間での〈日常〉

が始まった。

「意識を持った生命体が地球圏を離れてほかの惑星へと向かうのは、

46億年の地球の歴史の中で、わたしたちが最初なのだということを忘

れるな。…」

未来に向かって人類の使命をまっとうする搭乗者の苦悩と強い意志

も描かれている。

さて,いよいよ火星に軟着陸。フィクションとは言えとてもリアルな

展開だ。一人の命を落とすというアクシデントにも見舞われるが,火

星に生き物がいた証拠(化石)や知的生命体の残したらしい証拠も発

見する。大成果を収めての帰還だ。「“太陽系人”という言葉が,国

や宗教といった区別をまるで取るに足らないことのように人々に思わ

せ始めもしていた」と,未来の地球界の動きも描かれている。

火星探査という手法を使って,人類の未来像を描いた壮大なストーリ

ーである。                            200910月 1,400

 

『トンボのなかま』     海野和男著   新日本出版社

トンボは身近な昆虫で子どもたちもよくつかまえてくる。しかし,似

たりよったりのトンボも多く,「あのトンボはなにの仲間なのかな」

と気になることも多い。この本では,長年,昆虫の生態写真を撮りつ

づけられた海野さんが,すっきりとトンボの特徴をまとめてくれてい

る。ずっとながめているだけでも楽しい本である。

最初の「トンボのかお」もながめてみると,なかなか個性的だ。

「とぶのがとくい」の写真は見事。「4まいのはねを、べつべつにう

ごかして、…」コントロールしているとはきわめて高等な技能だ。ト

ンボの区別で惑わされるのは〈色〉だ。「色ちがい」でその謎もとけ

てくる。ヤゴが魚をつかまえる瞬間の写真,羽化の連続写真,交接写

真,産卵の写真,いずれもシャープに撮影されている。後半は,トン

ボの仲間毎にたくさんの種が紹介されている。

「黒いアカトンボ」がいたり「赤いトンボでも、アカトンボとはちが

うなかまのトンボ」もいるというのも自然界のおもしろさか。ヤンマ

とサナエトンボの仲間はよく見ないと区別がつきにくい。なるほど

「枝に止まるのがヤンマ,石の上や葉の上にはねをひらいて止まるの

がサナエトンボ」で,まずは区別がつくか。トンボにもいろいろな習

性の違いがあることが見えてくる。    200910  1,400

                         (西村寿雄) 

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