―わたし好みの新刊―
2010年7月
『日本らしい自然と多様性』
(岩波書店ジュニア新書)根本正之著 岩波書店
近年,まわりの自然の姿が徐々に変化してきていることは,みんな気づいてい
る。かつての谷津田はどんどん放置され,山林の荒れも目立つようになった。ま
た,街ではヒメオドリコソウやナガミヒナゲシなど,今まで見かけなった草花が
急に目につくようになった。いったい,日本の生態系はどうなっているのか,外
来植物にどのように対処すればいいのか,だれしも気にはしつつ,明確な視点が
持てないでいることが多かったのではないだろうか。著者は,植物生態学の専門
家で,本書は身近な雑草を中心に,〈日本らしい自然〉をどのように維持してい
くか,植物の習性をもとに今後のあり方について提言している。
最初に,かつての日本の自然をふりかえった後,「多様性のエコロジー」では,
〈陣地のうばいあい〉に象徴されるような,植物のしたたかな生き方が紹介され
ている。次の
「植物は人間の行為をどう受け止めたか」では,人間がさまざまな土地改良や
化学肥料の開発によって作り上げてきた新たな環境に,素早く順応していく外来
植物のしたたかさが記されている。よく見られるセイヨウタンポポも大半は交雑
種とのことである。最後の項は「半自然を再生して生物多様性をとりもどす」で
ある。ここでは,「どうすれば,日本の在来植物の多様性をとりもどすことがで
きるのか」に焦点がしぼられていく。若い人たちを中心に植物に親しむ環境を作
ること,そして,今も河川堤防等にわずかに残る〈原風景〉に学び,その環境を
維持していくことを説いている。少し情報量が多い。関心のある項から読みすす
めるとよい。 2010年5月 780円
『このあいだに なにがあった?』
(かがくのとも4月号)佐藤雅彦+ユーフラテス
なかなかユーモラスな本である。最初は,羊の写真が2枚。一枚目はふくよか
な毛をまとった羊,そして間をあけて2枚目の羊には毛がない。「このあいだに
なにがあった?」,
経験の多い大人であればすぐに見当がつく。次頁をめくると,職人が羊の毛の刈
り取りをしている写真がまんなかにお目見えする。「やっぱりそうか」
つぎは,オタマジャクシとカエルの間,「うん? なんだろう?」「足の出たオ
タマか?」
あたり。次は,造船所の船の進水式。これは,すぐに推測がつく。その次が難しい。
ひっくり返ったカメと起き上がっているカメ,ひっくり返ったヒトデと平気で歩
いているヒトデ。その間には…? 次頁の写真を見て「へエー。すごい」の連発。
あといくつかの場面が続く。この本に付けられているパンフレットで著者は書い
ている。
「…私たちは成長するにつれ、このように,あることがらが変化した結果だけか
ら、途中に何が起こったのかを推し測ることができるようになります。まだ幼い赤
ちゃんは、目の前のおもちゃや食べものが見えなくなると、無くなったものとして、
その存在を忘れてしまいますが、三、四歳にもなると、誰かが隠したり食べたりし
たのではないかと推測できるようになります。……最終的に、人間は、一見して分
からない事象に対しても、判断を諦めるどころか、逆に興味をもってしまうという
ところまで行き着き、その好奇心というエネルギーが、推理する力へと変化するの
です。この推理する力は、人間ならではの力です。この本では、その人間ならでは
の推理する力が発現するときの面白さや、喜びを感じてもらいたいのです。…」
この本に興味が持てれば〈人間的である証拠〉らしい。お試しあれ。裏表紙は
影ができた地球の写真。この間には?
2010年4月刊 390円
「新刊案内7月」