わたし好みの新刊―       201010

 

『煮干しの解剖教室』       

  小林眞理子著   仮説社

 〈魚にも心臓や脳みそがある〉という思いは,スーパーで魚の切れ身を買って食べ

ている日常からは、消え去っているのではないだろうか。我々がふだんいただいてい

る魚も〈海の生きものの命〉をいただいているという感覚にはなかなかなれない。し

かし,どんな切れ身の刺身であれ,干物であれ,一つの命をいただいているのである。

 「煮干しの解剖」とは,なかなかおもしろいところに着眼された。小さな煮干しと

言えども立派な魚である。長さ10cmもある煮干しを一つ一つていねいにくずしてい

くと……,魚の頭とか,心臓,鰓,胃,腸,はては卵巣,精巣なども出てくる。あたり

まえであるが,魚も立派な動物であることが意識づけられる。いろいろ分解したあと

は,見事な骨格標本ができあがる。

 まず,「にぼしをまるごと見てみよう」のコーナーがある。ここでは,魚の外見の

名称について確認できる。続いて,目玉やウロコの機能を見た後,いよいよ〈解剖〉

に取りかかる。〈解剖〉といっても,メスもハサミもいらない。素手でていねいに

分解していけばいいだけである。

まず,頭をとって縦に二つに開いてみると…,頭蓋骨や脳,脊髄やえら,さいはが

見えてくる。注意して見ると心臓もくっついているのがわかる。胴体には肝臓,心

臓,胃,腸と見える。運がよいと立派な精巣が見つかる(雄は数少ないらしい)。

それぞれの機能の解説もある。

 解剖したあとは,食べて食感を味わうとよい。

 この本は,小さな魚にも生物としてのなくてはならない機能がちゃんと納まって

いることに気づかせてくれる。手軽に,魚の命にふれられる案内書である 

    20107月 1,500

 

『瑠璃色の星』               山崎直子著  世界文化社

 山崎直子さんは,20104月国際宇宙ステーションのミッションに参加し,最後のスペース

シャトルに乗って無事帰還された日本人宇宙飛行士である。その山崎さんが,宇宙飛行士に

なるまでの姿をふりかえり,宇宙で考えられたことなどが綴られている。話の合間には,宇宙

での写真が次々と挿入されているが,話はとぎれることはなく連続した読み物となっている。

まずは,「あこがれの宇宙へ」。山崎さんが宇宙飛行士をめざす経緯が語られていく。わ

からないことをどこまでも解明したいという人間の欲求,能力があるからこそ「ふしぎに満

ちた宇宙に命がけでめざすことができる」と山崎さん。「地球の生きもののすべてがほかの

生きものに頼って生きている〈命の関係〉が成り立っている」ことに思いをおこし,「瑠璃

色の地球」をますます,美しく神々しく感じられたと語り続けている。

「宇宙で考えたこと」の中で,人々は古くから宇宙にひかれ,星はあこがれの存在だった

のは,〈宇宙はわたしたちのふるさとだからではないか〉と答える。そういえば,地球にあ

る元素は,みんな宇宙からの贈り物である。宇宙は地球人間のふる里でもあるともいえる。

そして、やがていつしかやってくる〈宇宙人〉とも協力して,国際協力ならぬ〈宇宙協力〉

をするのだという。

最後に『瑠璃色の 地球も花も 宇宙の子』という句を介して,次世代をうけつぐ子ども

たちに「私たちのあとを引き継いでください」と呼びかけている。子どもたちに大きな夢

を託す文になっている。朗の読書などでも,子どもたちにわかるのではないか。 

    20108月刊  1,200円 

                      「新刊案内 10月」