わたし好みの新刊―       20111

 

『げんそじん』(元素キャラクターBook) 齋藤幸一監修  幻冬舎 

カバーでは「元素キャラクターBook」という文字が躍り,デザインは
どぎつい漫画チックな絵でうまっている。パラパラめくっても,とうて
い〈まじめな〉科学の本とは見えない。

 しかし,ちょっと書いてある内容を読み進めると,意外と興味がそそ
られる。帯にある「小学生から楽しめる」というには無理な文体である
が,中高校生,あるいは大人には読み応えがある。

 近年は,リチュウム電池,ネオジム磁石,フッ素樹脂加工,ラドン温
泉,ヘリウムガスなど,日常的にもけっこういろんな〈原子〉になじみ
が出てきている。そういう時代なので,金,銀,銅,鉄,或いは,酸素,
窒素,水素といった聞き慣れた〈原子〉の名前以外も,意外と身近に感
じられてくる。へんにキャラクター化して気を引く必要もない時代なのだ。

 この本の解説では,その金属の性質はもちろん,古くからの人間との
かかわりや,現在の工業的な利用の実態もくわしい。なかでも,興味が
そそられるのは,その原子の名前のいわれが書かれていることだ。石の
名前もそうだが,どういうことでそのような名前が付いたのか知るとな
にかしら親しみがわいてくる。
Heの解説を垣間見ると

 「全元素中、最も沸点が低い(−268.934C)ため、ほとんどいつも
気体。水素に次いで軽いので気球や飛行船、風船などに使われる。ヘリ
ウムは、周期表の右端
18族の元素で、これを希ガスという。……ヘリウ
ムは、太陽光の観測中に見つかったので、ギリシャ語で太陽(
Helios
の名がついた。……極低温の液体ヘリウムは、冷却剤に使われる。……」
と興味深い内容が書かれている。さて,窒素の
N,酸素のO,マグネシ
ウムの
Mg,などどんなところから原子の名が付いたのか想像できるだ
ろうか。               
   2010,10刊   1,400

 

『星と宇宙のふしぎ109』   永田美絵著  矢板康麿写真  偕成社

 久々に手頃天体写真の美しい本が出た。パラパラとながめているだけで
も,宇宙のかなたを遊泳している気分に浸れる。

 この本は「プラネタリウム解説員が答える天文のなぜ 109」とある。
著者の永田さんはプラネタリウムの解説員を務めたり、NHKラジオの「夏
休み子ども科学電話相談」のお相手もされている。この本は,そうした電
話相談に寄せられた子どもたちの質問を集約された。

内容としては 第1章 空のふしぎ,第2章 太陽のふしぎ,第3章 月
のふしぎ,第4章 星のふしぎ,第5章 惑星のふしぎ,第6章 宇宙のふ
しぎ,とまとめられている。子どもらしい質問もある。「流れ星は地球に
落ちてこないの?」「流れ星に願いをかけるとかなうの?」「もし、月が
なかったら?」「宇宙にはてはあるの?」。みなさんは,子どもにどのよ
うに答えられるだろうか。

 あまり知られていないが「月がはなれていっているってほんと?」とい
う質問がある。永田さんの答えは「ほんとうだよ。1年に3cmずつ、月は
地球から遠ざかっている。月ができたころ、地球から月までの距離は、現
在の16分の1しかなかった。そのころの地球には、木も草もなく、もちろん
人間もいなかったけれど、もしも、その頃に地球から月を見たら…」と続く。
後半には「これから宇宙はどうなるの?」など宇宙の壮大な話がある。最
後に「星とわたしたちのつながりは?」の中で「星とみんなは、つながっ
ているんだ。地球に住むみんなのからだにも、その星のかけらが入ってい
るんだ。…」としめくくっている。人間をつくる原子も宇宙で作られたもの。 

               201012月刊  1800円(西村寿雄)

              「1月 新刊案内」