わたし好みの新刊―       20112

 

『糸に染まる季節』       大西暢夫 写真・文  岩崎書店 

 子どもが読むというより大人が楽しめる大型写真絵本である。写真家の

大西暢夫さんが追った一染色農家ルポ絵本だ。初めは,染色農家岩田さん

のヨモギ取り風景が出る。こんな言葉が添えられている。「〈色には季節

がある〉って岩田さんは言う」

色の季節って一体なんだろうか。色の季節を追ってページは進む。

 以後,真綿を染めることを仕事にしている農家の主人,岩田さんを追う。

真綿とは,マユの綿の状態から紡いだ糸のことで,マユから一本ずつ紡い

でいく生糸に比べると,ふんわりとした暖かみがあるのだそうだ。校舎の

ような仕事場で,新鮮な葉っぱの煮出し写真が出る。ヨモギ,クルミ,ス

ギ,ニセアカシアといった身近にある植物の葉っぱを使うのだという。地

元で育った植物で染めたいというこだわりである。ムラが出ないように,

糸の束を上下に入れ替える作業が続く。真綿はしだいに美しい色にそまっ

ていく。岩田さんは「季節の色が、だんだんと糸に乗り移っていく」という。

「葉っぱの色とはちがう、目に見えない色のひとつひとつは、ひっそり隠

れている」のだそうだ。熟練ならではの言葉である。岩田さんは,その隠

れた色を引き出している。時期に従うしかない草木染めは柔らかい色をか

もしだしていく。ページいっぱいの真綿の色はほんとに柔らかいふんわり

とした色を出している。

 天井には各季節に染め上げられた糸の束がずらりと並んだ写真が出る。

〈糸に保存された季節の色〉が微妙な違いを見せてぶらさがる。冬には,

それらの染め上げた糸を使って布を織る仕事が待っている。やがて,町に

は雪が降り積もる。その間「山はじっと力を蓄えているかのように見える」

のだという。素朴な美しさを引き出す仕事をもくもくと続けている雪深い

町の写真集だ。 

                    2010,11刊   1,500円

『農作業の絵本1』

(栽培計画と畑の準備・そだててあそぼう96)川城英夫著  農文協

 農文協の〈そだててあそぼう〉シリーズが100号までになった。その,

96号から100号までがこの『農作業の絵本』でしめられている。『農作業

の絵本』は「栽培計画と畑の準備」(96),「タネまき・育苗・植えつけ」

(97),「野菜の診断と栽培」(98),「果樹の栽培とせん定」(99)

「収穫・保存・タネとり」(100)と,かなり念の入った企画である。

さて,このシリーズの1巻「栽培計画と畑の準備」をひもといてみる。

ちょっとした庭の片隅やプランターなどで,野菜を作りたい,或いは貸

し農園で少し本格的な野菜作りをしたいと思っても,まず,土をどうす

ればいいのか,いつ種をまけばいいのか,どんな肥料を与えればいいの

か戸惑うことが多い。この本は,そんな人にまず適当なサポートをして

くれる。

最初はなんといっても【栽培計画】。「なにを、いつどこで育てるか?」

「日当たりは?水はけは?畑の条件を調べよう!」などの項が並ぶ。

〈栽培ごよみ〉の作成で見通しの立った栽培計画作りである。そして

【畑の準備】へとすすむ。ここでは,いい土ってどんな土?から始まっ

て,土やうねの作り方,フィルムの使い方など基本的なノウハウが書か

れている。次の【肥料について】で肥料の基礎知識,元肥の与え方や施

肥の手順,追肥のあたえ方などイラスト入りで描かれている。次は,適

当な畑が使えない人のための【容器栽培】について紹介されている。

〈用土の作り方と、使った土の再生法〉など,ここでも土作りが大切で

あることがわかる。そして,最後の【道具と片づけ】で,使った道具の

しまい方,肥料やタネの保管法が書かれている。収穫への「感謝」でし

めくくっている。なかなかゆきとどいた本である。

   201011月刊  1800円(西村寿雄

               2月「新刊案内」