わたし好みの新刊―       20113

 

『かたゆき』ちいさなかがくのとも)
               小林輝子・文 城芽ハヤトえ 福音館書店 

 今年は例年にない大雪が各地に降り積もっている。豪雪地帯の子どもたちはどうしている
のだろう。北海道では校庭に臨時のゲレンデができている学校もあった。きっと子どもたちな
りに楽しみを見つけているに違いないと思っていたところ,この本が目にとまった。

 「かたゆき」って何だろう。雪が固まるのか? あいまいなイメージをいだきつつ読んでい
く。雪国を知らない大人にも楽しいイメージがふくらんでくる本である。

 話は,〈ともくんの雪体験〉という構成で続いていく。「ゆきが つもったよ」というおか
あさんの声に飛び起きたともくんの目には,まっ白な畑がとびこんできた。「きつねのあしあ
とがあるよ」とおじいさんの声。ともくんが歩こうとすると,長靴が雪の中に埋もれてしまって
歩けない。その後雪がどんどん積もって樹木の半分ほども埋め尽くすくらいになった。そんな
とき,庭先に自家製のすべり台ができた。雪国の子どもにはこんな楽しみもあるんだ。

 2月の中程になると,好天の日が続くときもある。そういう時は雪も溶け出すのだが…,
こういう時,あくる朝になると〈かたゆき〉になっているという。〈かたゆき〉になると,雪の
上も平気で歩いていける。歩いて森に近づくと…ふだんは高い木の芽も目の前に見える。
「もうすぐ はるだよ」と,おじいさんの声。〈かたゆきは〉は,雪国の人たちに春を告げる
シグナルなのだ。

 福音館書店の「かがくのとも」などの雑誌には,著者の思いなどを書いた〈おりこみふろく〉

がついている。著者 小林さんの「かた雪のころ」を読むと,〈かたゆき〉は,雪国の人たち
にとって新たな活動ができる大切な役目をはたしていることが読み取れる。あわせて,専門家の
解説もある。雪国の生活を垣間見れる楽しい絵本である。
       2011,02刊   410

   
    14歳のための物理学』          佐治晴夫著  春秋社

 著者の佐治晴夫さんは,『おそらに はては あるの?』(玉川大学出版部)などユニー
クな子どもの本を書いておられる。その著者の名前に惹かれてこの本を手に取ってみた。予想
通り,読みやすくて,難解な物理学もすいすいとついていけそうだ。「14歳のための…」とあ
るけれど,「かつて、14歳だったすべての人たちのために」とも書かれている。冒頭に

「一番基本になる〈力学〉の考え方を、物体の運動を中心にすえて、そこに、現代宇宙論
や哲学、あるいは、詩などの香りをまじえながら、必要最小限のところまで切り詰めて、や
さしく書き下ろしたものです」「それでは、ゆっくりと、物理のソナチネを楽しみながら弾い
てみてくださいね」

とある。ショパンのピアノ曲を聴くような感じで,文面を追っていけるのだが…。

 中味は、力学の基本である〈落下運動の世界〉〈慣性の法則〉〈加速運動〉〈作用、反
作用〉〈位置のエネルギーと運動のエネルギー〉〈エネルギー保存の法則〉〈空気の粒〉な
ど,古典物理の世界が続いている。項目を見ると難しそうだが話にはすいすいとついていける。
数式も出てくるが、それらは飛ばして読んでもさしさわりはない。「人生もどこか、物理の世界
に似ていると思いませんか」と,ときどき人生とのからみも書かれていて親しみも増す。例え話
も身近である。「月や人工衛星が、地球のまわりをまわっているということは、〈永遠に落ち続
けている〉ということです」「風船は、どうしてふくらむのでしょうか」などと,興味深い話も多
い。

さて,この本にはグラフや図版が一切ない。少し苦言を言えば,文章だけでは確かなイメージ
が伴いにくい。また,著者が予想する間もなく話が進んでしまうので,無感動な理解に終わって
しまう可能性がある。もう一工夫ほしい本である。      1700円 20111月刊
                            
    
               「3月 新刊案内」