わたし好みの新刊―       20114

 

『見つけるぞ、動物の体の秘密』  遠藤秀紀著 くもん出版 

  この著者の話は,2007年に出た『パンダの手に、かくされたひみつがあ
った!』(山本省三著・くもん出版)で紹介されている。
ここに出てくる動物解剖学者が遠藤秀紀さんだった。今度は,その遠藤さ
んが自ら執筆した動物解剖学者物語である。死んだ動物を解剖して,その
動物の体の仕組みや進化の謎を解明するのが研究対象だという。パンダや
ゾウといった大型動物も含む。研究目的とはいえ,大型動物の体(死)を
解剖するという厳しくて荘厳な気持が伝わってくる。

 この本の圧巻は「七本目の指の発見」だ。パンダの指の研究は,すでに
アメリカの研究者が始めていた。そして,
5指のほかに〈第六の指〉の存
在は明らかになっていた。パンダが竹をうまく握れるのは第六指で竹を挟
むからだと考えられていた。ところが,遠藤さんが亡くなったパンダを解
剖して,第6指を観察してみると…,第6指はほとんど動けないことがわ
かった。「では,パンダはどのようにしてあの長い竹を挟んでいるのか」,
新たな疑問がわきあがった。
 世界各地にクマの研究を広げている最中,再び動物園のパンだが死んだ
という知らせが届いた。ここで,遠藤さんは,
CTスキャンという最新鋭の
機器を駆使しながら新たなパンダの第七指を発見した。
これで,パンダが長い竹を自由につかめる理由が解明された。

 もう一つはオオアリクイの「細長い顔のなぞ」だ。オオアリクイは口先
を開くことなく,スルスルと舌の先にアリをのせて飲み込む。どうして口
先でアリが落ちてしまわないのか不思議である。ここでも
CTスキャンの登
場。意外なことがわかってきた。オオアリクイの顎が開いて獲物を取り入
れているのだった。その他,キリンの首はなぜ長いかなど,興味深い話が
続く。 

                  2010,08刊  1,400

 

『地球の発明発見物語』(紹介) 西村寿雄著   近代文芸社

 わたしたちの足下を支えているこの地球,大きくてとらえどころのない地球
にも,人間は数々のなぞ解きを試みてきた。観察をくり返し,想像をこらし,時
には大胆な仮説を立てて,この地球のなぞ解きに挑戦してきた。そのなぞ解き物
語を,エピソードを交え親しみやすい読み物とした。「地学なんて大きらい」と
いう大人の人にも読んでもらえる本を心がけた。

 まだまだ地球の歴史など頭にない時代,高い山の上で〈貝殻〉を見つけた時,
人々はずいぶんと困惑したに違いない。「きっと神様の仕業である」と思う人
も多くいた。そのような中でくわしい観察から合理的に考えていく人が現れた。
レオナルド・ダ・ヴィンチだった。しかし,そのレオナルドも,大きくたちはだか
る「神」の前には抵抗できなかった。他の科学と同様,真理が解明されるまで
には長い長い道のりが必要だった。

 このようなエピソードの形にして,複雑な地層を一つ一つひもといていった地
質学者,北半球一帯に広がっていた氷河の痕を解明した気象研究者,大陸は
移動したと発表した探検家,地球の内部を探り出した物理学者,凍土の中で長
く冷凍保存されていた生身のマンモスを解剖した解剖学者,日本でのプレートテ
クトニクス論の証拠をさぐりあてた現代日本の科学者の話など,地球のなぞ解き
に挑戦してきた科学者の物語をたくさん挿入した。合わせて,洞窟や火山など,
不思議な地球上の景観についても解説,石油や石炭発見物語なども取り入れて
いる。

1984年に発行された「発明発見物語全集」に合わせて『地球の発明発見物語』
とした。子どもたちに地球科学の楽しさを伝えたい。    
                     1,600円   201012月刊

                   (西村寿雄)

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