わたし好みの新刊―       20115

 

『エゾクロテン』(たくさんのふしぎ)  小林明弘  福音館書店

 ページいっぱいに次々と出てくる愛くるしい小動物エゾクロテンの姿
に思わず魅了されてしまう。「エゾ」とつくので北海道固有の動物であ
ることがわかる。もともとクロテンは大陸北部や樺太,北海道に生息し
ている。本土に棲むテンより少しずんぐりとして尾が短い。

 著者は,旭川郊外の森でエゾモモンガの撮影をしている時,エゾクロ
テンと遭遇する。点々とつながるエゾクロテンの足跡をたどりながら,
巣穴の前にテントをはって待つことまる一日。帰り際になってやっと念
願のエゾクロテンと遭遇する。そこから,数年にわたるエゾクロテンと
の出会い物語である。

 最初は,巣穴前のテントに毎日通うも,2週間はほとんど姿を見せな
かったという。しかし…,野生動物にこんなことがあるのだろうか。
「毎日通ううち、私になれてきたのか、エゾクロテンたちはだんだん
にねぐらから出てくるようになりました。」「やがて私の目の前でじゃ
れあって遊んだりするようになりました。」とある。以後,
3びきのお
茶目なエゾクロテンは著者の目の前でゆうゆうと時を過ごす,堂々と
昼寝をする,大きな口を開けてあくびもする,毛づくろいもする,お
まけに著者のカメラバックにおしっこをかけ,手袋までくわえて遊び
ほうける。う〜ん。野生動物がこんなにも人間と親密になるのだろう
か。餌付けでもしないかぎり起こりえないと思うのだがどうだろう。
著者が名前を呼ぶと木の洞から出てくるクロテンもやがて年老いていく。
しかし,また,新しい命が誕生している。ほっとする場面である。

「エゾクロテンのすむ森は、多くの生き物のすむ森でありました」と,
解説で語っている。小さな動物の写真を通して,多くの生き物たちが
棲む森の大切さを訴えているのだろうか。

            2011,05刊 700

『葉っぱで調べる身近な樹木』(子供の科学・サイエンスブック)
                   濱野周泰
著 誠文堂新光社 

 ふつう,植物は花を見て区別するのが一般的で区別もしやすい。しか
し,いつも花が咲いているとはかぎらない。時には,木の葉を見て「な
んという名前の木なのか」と知りたくなる。この本は,木の葉の特徴で
木の名前をひもとこうと企画された本である。子どもにも親しめるよう
に,公園の木や街路樹などを中心にまとめられている。また,文字も大
きくしたり吹き込みを入れたりして,読みやすい工夫もされている。

 最初に,葉っぱを検索していく順序を書いている。葉っぱ全体の形や
鋸歯の出具合,葉の切れ込み具合などに目をつけていく。「ひろった葉
っぱを実際に見てみよう!」として,検索表がのせられている。はたし
て,うまく種名までたどりつけるかどうか。

 一つのページをながめてみよう。「初夏の白い花と秋の赤い果実が特
徴」と,この樹木の特徴がキャッチフレーズとして書かれている。とき
どき野山を歩いているとどんな木なのかイメージできる。3行ほどの解
説と葉の写真が載せられている。葉の写真は表と裏がある。このページ
の表の葉には「葉の縁は浅くて粗いギザギザ、または不ぞろいなギザギ
ザ」「表には毛がはえており、基部は広いくさび形か円形が多い」とあ
り,裏の葉には「裏は淡い縁白色。細かい腺点がある。葉先は短くとが
っている」などと書かれている。さて,この葉はなんでしょう。これだ
けで,「ガマズミ」と答えられたら,そうとうなマニアにちがいない。
「腺点」とか「縁白色」「基部」など,分類学上の言葉が不用意に使わ
れているのが気になるが,写真を見てだいたいの判別はできる。見て楽
しむ植物図鑑である。           
               2010,10 2,200
(西村寿雄) 

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