新刊案内―       20116

『さがりばな』           横塚眞己人著  講談社

 〈さがりばな〉という名前を聞かれた人はおられるだろうか。写真
を見て,今までに見たことのない花だなぁと思っていたら,西表島な
ど亜熱帯のマングローブ地帯に生育している希少植物だという。一見,
ネムの花に似ている。

とにかく表紙の写真にしばし見とれる。ピンクのめしべのまわりを
数十本の長いオシベが取り囲む。なんと幻想的な花だろう。しかし,
美しいその花の命は一夜だけという。ますます,神秘的なロマンが連
想される。

 ページをくると,水面上を白い綿毛が無数に浮かんでいる写真が出
る。その白い浮遊物の正体はなんだろう…と思っていると,一夜の花
期を終えた〈さがりばな〉の花,花,花である。まるで,流し灯籠の
ようだ。はかない命をおしみつつ,ゆったりと流れていく風景なのだ
ろうか。

さがりばなの花が、ひらきました。/花がひらくと、あたりは、/

  あまいかおりで、いっぱいになりました。

とも書かれている。せいいっぱい甘い香りを漂わせて,一夜の内に虫
を呼び込む戦術だ。大きなガが1つの花に飛来した。そこに「あたら
しい命がうまれます。」とある。ガが去った後の写真には「綿毛の花
が、命の花になりました」と記されている。まさに,一匹のガが花に
次の命を授けたのだ。夜明けになるとほとんどの花は落ち死を迎える
だけだが,「おち葉やかれ枝といっしょに、土になります。/その土
が、また、さがりばなの木をそだてます」と命のつながりを語っていく。

 短い文章の中にも、「命」がテーマとして綴られていることが感じ
られる。美しい花に秘められているはかない宿命を見ているようだ。

              
     2011,03刊   1,400

 『いのちの起源への旅137億年』   
              
   前田利夫著  新日本出版社

著者は科学ライターである。ことさら子どものための科学読み物とい
う位置づけではないが,文章が平易で読みやすい。中学生以上なら興味
深く読めるのではないか。

題名は〈命の起源への旅137億年〉である。今までの研究範囲では,
灼熱後の地球に命が生まれたのは40億年ほど前が普通だった。それが
〈命の起源は137億年前〉という。いったいどういうことだろうか。命
の根源にまでさかのぼるのか。

最初は「人はみな兄弟」から始まる。ここで興味を引くのは,現代人
の起源である。DNAをたどっていくと,アフリカから人類が世界各地に
拡散していった歴史が解き明かされていく。日本人のルーツも二手に分
かれて興味深い。次に,人類以前の生物のルーツをたどっていくと40
年前の〈生命体出現〉時代にたどりつく。

さらに命の旅が続く。こんどは,細胞の元をつくっている原子の世界
に入っていく。生命の元を作っている水分子は,酸素と水素からなってい
る。いったい,酸素や水素など,地球上の原子はいつどこからやってき
たのだろうか,地球誕生時には今の原子は,すでに地球の中にあったの
だろうか。或いは,宇宙空間に浮いていたのだろうか。本は宇宙創生の
旅物語に入っていく。つまるところ〈命の旅の終着地は137億年前の宇宙
創生時〉にさかのぼる。そこまで考える人間のすばらしさに圧倒される。
中高校生からシニアまでわくわくする命の誕生物語である。
        
                2011,5  1,400円(西村寿雄)

            「6月 新刊案内」