新刊案内―  
                   
    20117

 

『写真でわかる花と実』  江川多喜雄著  子どもの未来社

 「はじめに」によると,〈小学校5年生で学習する植物の学習資料
としてこの本を用意した〉とある。教科書にあるなしにかかわらず,
植物にとって大切な視点という観点からも,この本の内容は役に立ち
そうだ。植物にとって基本的な概念は,やはり生殖をつかさどる花と
実であろう。その花と実について,身近な植物を例に写真で紹介して
いる。

 T項は「めしべが実になる」である。〈めしべ〉は花の一番の命の
部分。まずは,春の花アブラナ科とマメ科で花の基本を学ぶ。次は
「U
いろいろなめしべと実」でサクラが登場する。サクラには「実」
が見にくい種もあるので意識して観察できる。ほかに「花」がなかな
か見えない植物もある。そのひとつが野菜の花である。ふつうは「花」
が咲く前に刈り取られてしまうので,「野菜には花が咲かないのでは」
と錯覚される。その意味で,ネギの花の写真は貴重だ。ネギぼうずの
小さな花にも,ちゃんと「めしべ」と「おしべ」がある。花のあとに
はたくさんのタネをつける。さらにムギとススキの花が紹介されてい
る。当然ながら一つ一つのムギの実にそれぞれ花を付ける。植物の学
習でもう一つ誤解を生むのがユリ科植物である。「V
球根を植えるも
のも種子をつくる」では,チューリップやユリが紹介されている。球
根植物も基本はちゃんとした「タネ」で生育する。新種はタネをとっ
て交配して作る。次は「W
雌花と雄花がある」である。これも植物の
おもしろい生き方だ。野外では意外と雌花が見つけにくい。さらに特
化して「X
雄株と雌株がある」へと進む。オスの木,メスの木は遠く
離れていても実を結ぶ。何が得する戦略なのだろうか。最後は「Y

しべがたくさんある」で集合花の紹介である。この本では,個性的で
多様な植物の生きる姿を簡単に知ることができる。      
                   
2011,03刊   2,000

 

『わすれたくない海のこと』     中村卓哉著  偕成社

 著者は,沖縄に移住する海中カメラマンである。子どもの時に経験
した美しい沖縄の海が忘れられず,沖縄の海を撮りつづけている。あ
る日,米軍基地が沖縄北部に移転するというニュースを耳にした。著
者はいてもたってもいられず,辺野古がある大浦湾海底の撮影を始め
た。

大浦湾は,深い森にからの栄養をいっぱいに受け,多様な生き物を
生息させる環境を作っている。「だれの目にもふれず命をはぐくんで
きた生きものたちは、今も楽園の海でゆらゆらと波にゆられています」
と,声なき生きものたちの声を〈あとがき〉で代弁している。

それでは,大浦湾には,どんな生き物が生息しているのだろうか。

まず,亜熱帯の深い森の様子が飛び込んでくる。森は小さな生きも
のたちの楽園である。たくさんの生きものたちのふんや死がい,木の
葉が集まって豊かな森を作る。滝つぼではエビやハゼが顔をのぞかせ
る。干潟にしか棲めない生き物もいる。威風堂々とした?トビハゼが
泥の上から顔を出す。マングローブの森はカニたちの天下だ。近くの
干潟では,潮が引いたときにみんなで食事に出かけているコメツキガ
ニの一団がある。ハクセンシオマネキも大きなハサミをふりかざして
歓迎する。次に奇妙な生き物が写し出される。なんだろう。海底の砂
からニョキニョキと手をのばしている。サンゴの一種でウミエラとい
うとのこと,これでもサンゴ虫かと見とれてしまう。続いて,海底に
棲む多彩な生きものたちの顔が次々と並んでくる。深い海に行くほど
美しいサンゴの海が広がり,おなじみのクマノミやフグたちの楽園が
広がっている。大浦湾は多様な生きものたちの楽園なのだ。  
                2011,3  1,500円(西村寿雄)

                   「7月 新刊案内」