新刊案内―       20118

『ツノゼミ』         丸山宗利著   幻冬舎

 世の中には,ほんとに奇抜な生き物がいるものだ。「その想像しがた
い姿をした昆虫の代表がツノゼミである」,「本書を通じて生き物の形
の豊かさ、すなわち生物の多様性に一人でも多くの人が愛情と慈しみを
もっていただければ、これ以上の喜びはない」と著者は書く。この本は,
ツノゼミの図鑑仕様であるが,次々と出てくるその奇抜な姿に目を奪わ
れる。まさに,「発想力豊かな芸術作品」のオンパレードである。「ツ
ノゼミ」の体長は数ミリ,羽根や特異なツノの部分を入れると
10mm前後
という小昆虫である。よくもこんな小さな生き物を何十種も集めて写真
に収めたものだ。まずは,その根気と技術に脱帽だ。

 最初に現れるのは「ヨツコブツノゼミ」である。見事に4つのコブが
配列されまん中からは一本の長い角が後ろに伸びている。なんでこんな
じゃまなコブが4つもついているのだろう。いったいどういう機能的な
良さがあるのだろうか。樹上生活者とのことであるが,これで他の虫た
ちを威嚇するのだろうか。次にめくると「重厚な体」とある。ツノゼミ
にも「ツノ」のないタイプもいる。前身バナナ色にそまる「バナナシズ
クツノゼミ」,重厚なつやを見せる「キベリシズクツノゼミ」などもいる。

こんな小さな生き物にもさまざまな〈戦略〉を持つものもいる。見た
ところヤマオオアリかと思うような,アリそっくりの「アリカツギツノ
ゼミ」,腹に黄色のすじをつけたドロバチそっくりの「ヒメハチマガイ
ツノゼミ」,バラのトゲトゲを背負ったような「バラトゲツノゼミ」,
イネ科植物のタネそっくりの「ムギツノゼミ」,等々,次々と珍種が登
場する。

所々に「ありえない姿のひみつ」「なかまとの会話」「ツノゼミの一生」
などコラムとして,ツノゼミについて解説がある。これでツノゼミの全
貌がつかめる。熱帯の地をさまよい,こんなミクロな昆虫を追い求めて
いる研究者がいることも驚きである。  
2011,06刊   1,300
 

『よくわかる 岩石・鉱物図鑑』  円城寺守著   実業之日本社

「よくわかる…」「小学校高学年向き」という書き込みがあるが,少々
難しい。岩石をいろいろ根源的にながめていこうとする方向は大事である。
岩石に興味のある高校生以上には基本的な内容がわかり参考になるのでは
と思われる。

1章は「岩石・鉱物ってなんだろう」から入っている。地球上のすべて
の物質のもとは原子,「元素の誕生」の話があり「元素の周期表」が登場
する。〈石〉といっても,元は原子というわけである。第2章は「岩石図鑑」
となっているが,図鑑というよりしばらくは話が続く。地球の内部構造や
プレートテクトニクスの話が入るが,これだけでどこまで理解できるかむ
つかしい。続いて「岩石の輪廻」「岩石の風化」の話がある。続いて,
「3つの分類」として「堆積岩・火成岩・変成岩」と説明が出る。堆積岩を
分類の最初にもってくるというのは意外,堆積岩はどちらか言えば二次的な
岩石である。堆積岩のコラムに「黒曜石」石器の話が出てくるのも場違いと
いう感がする。火成岩の分類でまず登場したいのが〈花崗岩〉なのだが,な
ぜか〈流紋岩〉が先に出てくる。〈流紋岩〉は花崗岩と同じ成分だけれどあ
まりなじみのある石でない。ここで〈橄欖岩〉も出てくるがこれはマントル
からの岩石でちょっと異質である。変成岩は分類的な記載だけでなしに,こ
こでプレートテクトニクスの話を出すと意味がますのだが。第3章「鉱物図
鑑」,第4章「岩石・鉱物を採集して標本をつくろう」はいろいろと興味深
い話が多い。
             2011,3    1,300
                          

             「8月 新刊案内」