新刊案内―     201201

 

『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう』 (岩波書店ジュニア新書)森 治著 岩波書店

 「宇宙ヨットで旅をする」という題名を見たとき,この本は未来の夢を語ったSFかと

気軽に読みかけた。するととんでもない,今も宇宙を飛んでいる現実のヨット「小型ソー

ラー電力セイル実証機」なのだ。「はやぶさ」に気をとられている合間にこんな宇宙探検

の実験機が飛び出していた。それにしても,ソーラーセイルだけで宇宙を飛ぶというのは,

まさにかさを広げて宇宙を航海しているようなもの,燃料も推進機もない〈浮遊物〉がど

うやって広大な宇宙で航行しているのだろうか。

一つは,精いっぱい広げたセイルに太陽電池がつけられているということ,セイルには

れるような膜のような薄い太陽電池が開発されている。さらにセイルの角度を調節する

ことによって太陽光を推進力にしているという。宇宙空間には抵抗になる空気もないの

で,こういう微力でもかなりの速度を維持できるそうだ。宇宙ヨットは,20105月に

種子島宇宙センターから大空に向かい201012月には金星に接近して今も飛行を続

けているという。金星近くからのからの美しい写真も地球に送り届けている。なんとい

う大胆な未来の〈宇宙開発〉だろうか。

この探査機の難問は,なんといっても宇宙でセイルを順調に開かせるという技術だ。

どんなところにそのヒントがあるのだろうか。そのヒントは折り紙にあった。いくつもの

折り紙を駆使しながら,最も適したセイルの折り方をつきつめていったという。まさに

日本人しかできない技である。また,セイル接着にも新技術が開発がされ,長年の紫

外線にも耐えうるものが使われている。

こうしたミッションの開発は,多くの人のチームワークが要になって常に新しい技術が

開発されていく。実験を繰り返し成功へ道を歩む技術者の精神力の強さも浮かび上

がってくる。

後半には,〈宇宙への夢〉を追いかけ歩んできた著者の経歴や,子どもたちへのメ

ッセージも書かれている。この本を読んで宇宙への夢をふくらませる子どもが増える

に違いない。

                                         201110月刊  820

 

『こん虫のことば』(こん虫のふしぎ3)  岡嶋秀治監修  偕成社    

 〈こん虫のことば〉,つまりこん虫のコミニュケーションについて簡潔にまとめた写

真本である。

最初に次のような言葉が綴られている。

 「こん虫は、ことばをもっています。/人間のことばとは、ちがうことばです。

  さむい冬のあいだ、地下の巣あなにこもって/くらしていたクロオオアリが、春になって、

  かっぱつにうごきはじめました。

くずれてしまった巣あなの入口を、/おおぜいで、なおしているところです。

  力を合わせて、巣を大きくしています。

  大きなむれでくらすアリは、/どうやって、/なかまと会話をしているのでしょうか。」

バックには,クロオオアリが集まって動き回っている写真がのせられてる。アリたちはか

ってがってに動いているのではなくて,協力しながら一つの作業をしている。お互いに

コミニュケーションをとりながら作業をしているに違いない。そのためには〈会話〉が

必要なはず,いったいどうやって〈会話〉をしているのだろうか。ページをくると,クロ

オオアリの〈会話〉の場面が写し出される。なるほど,すばらしい能力だ。次はアリの

行列の写真,これも〈会話〉の一つと著者はみる。夜の森でただじっと止まっているヤ

ママユガのメス、なにをしているのだろうか。裏から見ると、おしりの先から芳香な自

分の臭いを発散させている。やがてオスが誘い込まれてくる。オスの大きな触角は臭い

を感じる名器になっている。これらの行動も〈会話〉の一つだ。ホタルのオス、メスの

間では光が〈会話〉の手段となっている。それではセミは? コオロギは? ミツバチ

はと話が進む。特にミツバチは高等な情報交換術を持っている。虫たちの〈会話〉の手

段もさまざまだ。

 言葉を持たないこん虫たちの多様な情報交換術を美しい写真で紹介した本である。 

                                          201111月刊   1,400(西村寿雄)

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