わたし好みの新刊―     201202

 

『はじめてのほしぞらえほん』 村田弘子文 パイ・インターナショナル

 宇宙という広い天体を語るには,たくさんの星座を紹介するだけでは全体像がつか
めない。かといって宇宙空間の広がりや動きをいきなり解説しても,読者の思考が追い
つかない。そのような難点をうまくクリアして,宇宙の広がりや動きや星空の世界をやさ
しく語りかけているのが本書である。

 「きょうも まどから 星は みえるかい?」で始まる。となりページには,窓から
見える星空が描かれている。上弦の欠けた月といくつかの星,この程度の星空が普通
に見る星空だ。ページをくると見開きに広い星空の絵。「みえている星は ほんのいち
ぶ」と書いて,見えている以外にもたくさんの星があることを語りながら次のページへ。
次のページには満点の星空が描かれている。「ずっとずっと むかしから ひとは 
きみと おなじように よぞらの星を ながめていたんだ。」と語る。昔からずっと人々
は星空をながめていたと知ると急に星空が身近に感じるに違いない。その後に星空の指
標となる簡単な星座,はくちょう座や北極星,北斗七星などの話が入る。

そのあと,地球の動きと星の動き,星の明るさの意味,星までの距離などの話が書か
れている。少し理屈っぽい部分であるが,わかりよいイラストで端的に描かれていている。

 そのようにして少しは星空の様子がわかったところで,再び星座の話にもどっている。
まず,季節によって違う星座が見えるわけを解説した後に,各季節の星空の話に入って
いる。各季節見開きで,星座の名前入りと名前なしの図が併記されているので,何度も
自分で確かめることができる。

 最後には,惑星の話や月食,日食の話,彗星とながれ星などもまとめられている。
後半など,少し難しいと思われる部分もあるが,これについて監修者の渡部潤一氏は
「保護者の方と一緒に読み進めることで、ともに考える楽しみも生まれることでしょう」
と語っている。
年齢差に関係なく星空入門の本として適した本である。
                          20117月刊  1,800

 

『立山に咲くチングルマ』
    (たくさんのふしぎ 
20122月)高橋敬市文・写真 福音館書店  

 この本のフィールドである標高2400メートルの立山室堂平は,電車,ケーブル,バス
を乗り継いでだれでも訪れることが出来る。少々個人的な話になるが,火山地形として
学べることも多く私は何度も立山を訪れている。北アルプスの一角に位置する立山は,
かつての氷河時代に生きていた珍しい動植物にも会うことができる。ライチョウをはじめ
高山植物も多く,訪れるたびにさまざまな美しい花に出会える。その一つがチングルマ
である。

チングルマという花を読者は思い描かれるだろうか。信州などの高原を歩いているとき
に,秋から冬にかけて,くるくるっといくつもの毛を巻いたような花軸を見られたことはな
いだろうか。それがチングルマの綿毛である。

この本は,チングルマの季節による変化のおもしろさを,立山の美しい風景と重ねて見
事に表現している。ページをくって眺めているだけでも楽しい本である。チングルマは春に
なると比較的地味な白い花をたくさんつけている。なんと月明かりの夜でも閉じることなく
咲いている。「チングルマは一度咲いたら、散るまで花びらをとじることはない」と書かれ
ている。ふつうの草本とは違う花の強みはなんだろうか。ページを繰るとちょっと意外なこ
とが書かれている。チングルマは花の形からいうと里山に咲いているカタバミやゲンノショ
ウコと同じように一年生の草本に見える。しかし,「チングルマはバラ科の木です」と書か
れている。なるほど,チングルマの芽吹き前の群落を見ると木の枝が縦横に走っている。
チングルマは何年も生き続けている木本なのである。

晩秋の立山は鮮やかな紅葉に彩られる。この時も絨毯のように敷きつめられたチングル
マの葉が主役になる。霜が降りると「着物の絵柄模様」に仕上がるチングルマの葉,雪原
になるとエビのしっぽのような景観を見せるチングルマの花軸,いつの季節もチングルマは
立山の主役である。もういちど立山に行きたくなった。    
                  
     20122月刊   700(西村寿雄)


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