わたし好みの新刊―   201203

 

『娘と話す 原発ってなに?』      池内 了著   現代企画室

 著者は『お父さんが話してくれた宇宙の歴史』『科学の考え方学び方』(岩波
書店)など,子ども向けの本も出されている同時に『寺田寅彦と現代』(みすず書
房)なども出版されている。宇宙理論の専門家であると同時に科学論にも深い関心
を持たれている科学者である。

 この本では,そのような経歴の著者が,こん身の思いをこめて次世代を担う子ども
たち(中高生以上)に原子力発電の危険性を語り,これからの日本の歩むべき方向
を語りかけている。「娘」との対話形式をとり読みやすく構成されている。大人にも貴
重な提言が多数含まれている。

 まず最初に今回の原発事故は「人災だ」という。「そもそも地震と津波が多い日本
には原発は作るべきでなかった」と語る。〈豆腐の上の国〉である日本に54基もの原
発が作られ,たえず「安全神話」が唱えられてきた日本。ここにきて読者は異常な原
発大国にはっとさせられる。

続いて,原発ってどういうものなのか,連鎖反応,放射線,放射能の話へと進む。
日本は〈トイレなきマンション〉状態で放射性廃棄物処理の方法も定まっていない。今
回の事故で,内部被爆の問題をはじめとして,放射能汚染,生物濃縮の問題など深刻
になっていることがわかる。

 次に,原子力発電の社会的な問題にきりこんでいる。他の発電方法に比べて「原発
は安くない」と解き明かす。おまけに原発には膨大なエネルギーのムダもある。なのに,
原発を多く誘致してきた日本の社会的な背景をえぐりだす。過疎地の収奪,電力会社の
独占体制,そして核兵器への疑いなど,原発体制維持の根幹が明らかにされていく。

 最後に〈脱原発〉への具体的な方法を多く語りかける。今までの「地下資源文明」
から「地上資源文明」への舵きりを若い人たちに期待して文を閉じている。 
                       201110月刊  1,200

 

『ヤモリの指から不思議なテープ』
         
松田素子・江口絵理文 西澤真樹子絵  アリス館  

 表紙に大きく上記の題名が書かれているが,この本はむしろ,題名の上に小さく書かれてい
る「自然に学んだすごい技術(テクノロジー)」が本題である。自然界に君臨する小さな生き物
の巧妙な機能を人間が巧みに取り入れている事例をたくさん紹介した本である。「なるほど,
◯◯のそんなところからヒントをえているのか」と感心させられる事例が多い。この本を読み終
えると,自然界に生きる生き物のたくみな機能に改めて注目させられる。最初に次のような書
き込みがある。

「あたりまえだと思っていることを、/あたりまえだとおもわずに、/よく見て、考えて、探っ
  ていくと、
/そこには、たくさんの不思議や秘密がみつかります。/………

自然に学び、それを生かすこと。/エネルギーを使いすぎず、環境をこわさず、/自然と
ともに生きていける/新しい技術や物を作り出すこと。/それこそが、/人類にとって、地
球にとって、/これからもっとも大切になる未来の技術。/自然に学ぶ技術、

この本には16種の生き物から学んだ〈自然のテクノロジー〉が紹介されている。

まずは「ヤモリはすごい!」。そういえば,ヤモリは垂直な壁や天井でも自由自在に歩く。
吸盤がな
いのにどうして壁にくっつけるのか。その秘密は足の裏にある。ヤモリの足の裏に
は細い毛がびっしりとつまっている。おまけに,その毛先の一つ一つの形に特別な秘密がある。
その構造を研究して生まれたのがカーボンナノチューブ。ヤモリにまねてどこでも登れるロボッ
トの開発も進んでいるとか。

その他,ハスの葉から超撥水の技術を学び水がしみこまない紙皿やトイレットペーパーが開発
され
た例、蚊の針から痛くない注射針開発の話、ひっつきむし(オナモミ)からマジックテープ
が生まれた話、フクロウの羽根やカワセミの口の形から速くて静かな新幹線が開発された話
,カブトムシの羽根から宇宙ロケットのおりがみ(折りたたみパネル)が工夫された話と興味ある
話がいっぱいつまっている。少し文字は小さいが明解なイラストいっぱいで小学生でも読んで
いける。持続可能な未来を創るために「自然に学ぶ」ことの大切さを訴えて終わっている。
                               2011
12月刊   1,300(西村寿雄)


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