わたし好みの新刊―     201207

 

『見てびっくり野菜の植物学』  
              盛口満 文・絵  少年写真新聞社

 近年は,栽培技術も進化して多様な野菜が出回っている。それらが,たがい

にどんな関係にあるのかわかりにくいことも多い。この本は,〈野菜を植物とし

て〉視野を広げてくれる。

野菜を「花」「実」「種子」「葉」「イモ」「品種」「文化」と分けて話題

を出している。まず「花」。一口に花といっても花の形はさまざま,大きな花

弁をもつものもあれば,まったく花弁らしきものがないものもある。花の花たる

所以は花弁とは関係なくてシベにあるからだ。パイナップルの花と実の関係は

おもしろい。「パイナップルの実は実にあらず」というところだろうか。次に,

〈トマト〉と〈じゃがいも〉の実が見開きに描かれている。同じ「科」なのに,

赤い実をつけるものがある一方で青い実のままというのもおもしろい。人間に

よる品種改良のいたずらだ。次に出てくるのは〈ゴーヤ〉と〈ヘチマ〉。どち

らも「ウリ科」なのに,種子を撒布する戦略がまったく違う。野菜も個性的に

生きている。次はトウガラシのオンパレード。からい実をつけて野鳥からの採

食をふせいでいるというが,そもそも鳥たちには〈からさ〉は通じるのか。

甘いトウガラシもあるというからおもしろい。葉っぱの項では,タマネギの食

べるところは玉か球根か,とある。なんだろう?タマネギは葉っぱを食べて

いるのだという。そういえば,茎が根元につまっている。

後半は「品種」と「文化」の話。〈カブとダイコン〉は違うもの同士が人に

合わせて似たもの同士になったとか。〈文化〉では世界の交流が主役である。

「さまざまな野菜の品種は、長い歴史をかけて地域の人々がつくりだした文

化財のようなもの」とある。多彩な野菜が見られるのは,各地の栽培技術の

向上と交流の賜である。豊かな食文化は大陸文明の交易によって広がった。

扉表紙内の「野菜のふるさと」によると日本原産の野菜はほんの数個,ほと

んどすべての野菜は各国からの伝来モノである。裏にある「野菜伝来年表」

が時代毎の縦のつながりを見せてくれる。野菜について幅広く楽しませてくれ

る本である。盛口さんの絵もわかりよい。

201203月刊  1,200

 

『絵図解 輝くなぞ』

田中幸・結城千代子/文 野村まり子/絵  絵本塾出版 

 「絵図解」とあるだけに随所にさし絵がちりばめられている。テーマは「輝く

なぞ」だが,主として太陽の光を元にさまざまな光にまつわる現象を取り上げて

いる。

 初めは,闇の世界の解説。唐突に「何百、何千と束ねた針の先」の例が出

てくるが子どもには意味は分かるのだろうか。そのほか,星の光や鍾乳洞など

の闇の例が出る。次は「どうしたて太陽はまぶしいの?」とくる。「もし地球に

来る太陽光のエネルギーを全部電気に変えられるとしたら,世界中で一年間使う

量を1年間で作れてしまう」と書く。太陽エネルギーの壮大さが読みとれる。

次は,さまざまな光源について。「温度が上がってエネルギーがますと,原子

は光を出す。気体が高温になって光っているのが炎だ」と原子論的な解説をし

ている。大切な視点である。次の太陽光の反射や集光の話では,古来からの

楽しい遊びが紹介されている。「影」の話もある。朝夕の「影のマジック」は

子どもを不思議な体験へ誘う。「本影と半影」は日食などの話にもつながるの

ではないか。次の「影の文化」は,「手影遊び」や「影絵芝居」など文化的

な側面が紹介されている。「影の利用」のコラムでは,ギリシアの時代,地球

の大きさを測ったエラストテネスの話が出ている。子ども達にわかるだろうか。

次の「太陽光は、七色の集まり」という表題は誤解を生む。太陽光は決して七

色の集まりではない。太陽光は無限の光(電磁波・可視光線)の集まりで,た

またま人間が「七色」とか「六色」とか認識しているに過ぎない。しかも,この

「七色説」は光の認識とは異った理屈から出ている。「必要な色,いらない色」

は波長の吸収と反射の話である。光源による色の違いにもふれている。そして,

最後は「はじまり、それは光から」でしめくくっている。人間にも動物にも,すべ

ての生き物が光と共に生きていることを強調している。「太陽」「光」について

総合的に理解できるように構成されている。 

         20122月  1,800円 (西村寿雄)

           
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