わたし好みの新刊―     201208

 

『トチの木の一年』    太田威 写真・文 福音館書店

 著者の太田さんは,山里などでいとなまれている自然と人に焦点をあてた本を多

く発表されている。『ブナの森は緑のダム』『ブナ原生林』などがある。ここで取

り上げた本は,福音館書店の「ランドセルブックス」の一つで,小学校低学年児に

も読み聞かせできる体裁で作られている。写真主体のやさしい読み物である。他に

『トドマツ森のモモカンガ』『ゴリラとあそんだよ』『じめんのしたの小さなむし』

といった自然系の本もある。

 トチの木は対生の大きな葉をつけて大木となる木である。ふつう,山間部に多い

が都会の公園などに植えられている。秋に熟す実は大きく,古来らかヒトの大切な

食糧にもなっていた。

ページをめくるとまずは天にすっと伸びる早春のトチの木の姿が目に入る。

「春まだあさい、天気のいい日に、トチの木にあいに来ました。…」

と話が始まる。枝先には萌える葉,地面には早春の花,カタクリやキクザキイチゲ

が咲いている。

やがて,若葉の芽がすくすくとのびて葉の間からは,でくの坊のような花のつぼみ

が伸びてくる。

「若葉は、てんぐのうちわのように大きくなると、緑色にかがやきます。葉っぱの

間から、トチの花のつぼみがでてきました。」

初夏になるとトチの白い花穂があちこちでいっせいに搭状につきだす。幻想的な

風景である。

「まるでクリスマス・ツリーのような形をしています。花のあまいにおいにさそわれ

て、たくさんのハチや虫たちがやってきました。」

ミツバチの巣箱から蜂蜜をとっているハチ屋さんが出てくる。琥珀色のあまいトチ

蜜は人気の蜂蜜だ。つづいて保存食となる新巻づくりの話。川魚に四オオをまぶ

してトチの葉でくるむと,くさりにくくなるとのこと,トチの葉は村の保存食に一役

買っている。秋になると大きなトチの実が落ちる。

トチの実は古来から大切な食糧となってきた。今も,トチもちとして人々に親しまれ

ている。

                    01201月刊  1,200

 

『いろいろな形・きれいな形』 

   瀬山士郎/文  中村広子/絵  さ・え・ら書房 

 久々に算数の絵本が出ている。かつて福音館から出ていた「ぼくのさんすう わた

しのりか」を思い出させる。このシリーズは,本書の他に「数えてみよう 無限を調

べる」「全部でいくつ たしたりひいたり」「ハトと〈ハトの巣〉」「ふしぎな形・

表とうら」がある。

 この本は,コンパスで円を描く話から始まっている。こんどは,一つの円の上にコ

ンパスの針をさししるしをつけて,そのしるしを線で描くと…見事に「正六角形」。

さらに,いまつけたしるしを1つおきにつなぐと…,こんどは「正三角形」。この図を

見つめると大小いくつもの三角形が見えてくる。ここで,今までの形を整理して「多角

形」の話がはじまる。次は積み木遊びをしている場面。いくつも積み木を並べると多

角形が見えてくる。円以外,すべての形が多角形となっている。

 つぎは,多角形の紙をいくつか貼り合わせて立体的な多角形のおもしろさに気付か

せていく。

多角形を3枚以上はりあわせると…,ジャングルジムや大型テント,いろいろな形が

見えてくる。

透明の四角形を組み合わせて,直方体,立方体の話へとすすむ。はこの中からトラ猫

キャラクターがのぞいたり手に持ったりと楽しそうな絵がならぶ。

こんどは,同じ多面体を貼り合わせた立体図形が並ぶ。後半は,正三角形をいくつ

も並べて折り込めばできる正多面体の話や正四角形(サイコロの)話へとすすむ。

そして,正五角形からは…12枚はりあわせて正十二面体ができる。それでは,正六

角形を組み合わせてできる多面体は…う〜ん,うまくいかない。けっきょく,「正多

面体をつくれる正多角形は、正三角形、正方形(正四角計)、正五角計だけ」と

いうことになる。限定された中で多様な形が生まれてくることのおもしろさが伝わっ

てくる。最後の解説では,大人向けだが数学的な見地から正多角形の原則が書か

れている。

 子どもたちとともに形のおもしろさに気づかせてくれる本である。

                  20124月  1,300円 (西村寿雄)

           

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