わたし好みの新刊―    201209

 

『つながりあういのち』 千石正一文 ディスカヴァー・トゥエンティワン

 〈どうぶつ奇想天外〉などで親しまれていた爬虫類学者,千石正一さんが他界

された。私もいつぞや「自然環境研究センター」に千石さんをお尋ねしたことがあ

る。気さくにいろいろ教えてもらったことが遠い昔の思い出として残っている。千石

さんは,世界各地を飛びまわって研究に精を出しておられたが,5年ほど前,十二

指腸にガンが見つかった。余命が限られていると知ったとりまきのみなさんが,千石

さんに密着して記録を残しこの本の出版にこぎつけた。千石さんの楽しい動物談義が,

居ながらにして読むことができる。千石さんの声が聞こえてきそうだ。小さな生き物

をいとおしんできた千石さんの研究の楽しさが存分に伝わってくる。中高高校生に

はぜひ読んでほしい。

最初,千石さんの子どもの頃の話が取り上げられている。大人がヘビをいじめて

いる光景を見て「爬虫類よ、俺が味方になってやる!」と正義感もあらわ,きらわ

れもの爬虫類により愛着を持つことになった千石少年が登場する。千石さんは,

高校生の時にはすでに爬虫類の研究に精を出し,東京農工大の日高敏隆氏に教

わって動物研究生に,ますます動物研究にみがきをかける。〈わくわく動物ランド〉

で,初めて爬虫類を登場させたのも千石さんだ。エリマキトカゲを紹介して一躍人

気者に。「食は命につながる行為」だとしてことさら食べものには気を配った。

千石さんは「食はアートなのだ!」と説く。千石さんの一番の願いは「〈生き物

って面白い〉ということを子ども達に伝えること」,そのためにはカブトムシや恐竜

ではなくて「自分が楽しいと思えることを、そのまま伝えること」と語る。ガンの宣

告を受け,「死」を意識した千石さんは、さらに「命」について考えを深める。

「生き物はみんな美しく生きている」,「生き物は本来あるべき場所で生きるべき」

と語り,「もっと地球の声に耳を傾けてほしい。いのちはみんなつながっている

のだから」と最後の言葉を投げかけて終わる。

岩波ジュニア新書に『千石先生の動物ウォッチング』がある。

                       201204月刊  1,300

 

311後を生きるきみたちへ』(岩波ジュニア新書) 

  たくきよしみつ著 岩波書店  

 フクシマ原発事故の後,さまざまな人の本が出回っている。最も多いのは,専門家に

よる原発と放射能の話。それについで多いのは,放射線の被害を受けた住民の側からの

話だ。ここに取り上げた本もその1つである。著者は,作家,音楽家とある。静かな環

境を求めて新潟県の山村に住まわれていたとき中越地震に遭遇,新天地を求めて福島

県川内村に居をかまえ文筆活動を始められていた。その矢先,再び福島第一原発からの

放射性物質の流出によって再び転居を余儀なくされた。その時の体験談から,これから

日本人として考えなければならない問題をシビアに報告されている。岩波ジュニア新書

1つでもあり,読みやすい文章で被災時の現状と悲劇,怒りが伝わってくる。

 まず,「あの日、何がおきたのか」の章では,情報不足に惑わされる被災地の様子

が手に取るように語られている。「徹底して隠された汚染の事実」「もっとも危険な場

所に避難誘導された」など人為的な話が続く。第2章「日本は放射能汚染国家になっ

た」で,放射能やベクレルとシーベルトなどの話のほか,内部被爆についてもとりあげ

て危険性を訴えている。「事故から1年も経つのに、保安院や原子力委員会といった組

織は、解体されるどころか、なんの組織改革・再編も行われず、事故前と同じことを

やっています。これだけ大きな代償を支払ったのに、日本がまったく変われないことこ

そ、いちばん恐ろしいことです」とこの章をしめくくっている。第3章は「壊されたコ

ミュニティ」。実態とかけ離れた罰則つきの規制をかけられ、家から追い出される住民

の苦悩,補償金,義援金をめぐるさまざまな問題が人の心を病んでいく実態が描かれ

ていく。「それまで築き上げてきたすべてをすてて、遠方に移住していかざるをえない

人の苦しみはいかほどか,想像を絶する想いで読み進める。後は「原子力の正体」

「放射能より怖いもの」「エネルギー問題のウソと真実」「311後の日本を生きる」

と章が設けられている。

 本の題にあるように,これからの日本を考える材料として中高校生等に語られてい

る本である。             20124月 820円 (西村寿雄)

 

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