わたし好みの新刊―     201210

『新版 ドライアイスであそぼう』  藤沢千之・板倉聖宣   仮説社

 この本の旧版は,1990年に国土社から出版されている。それ以来,ドライアイス

を扱った実験は毎年,夏の子ども科学教室の人気ものとなっている。この本では,

ただたんにドライアイスの現象を楽しむということではなくて,見えない気体にもなれ,

原子分子のイメージをふくらませるように実験やお話が構成されていた。ドライアイ

スの科学体験が,だれでも手軽にてきるようにこの本は編集されていた。今回,新

版として発行された本は,内容的にはほぼ旧版を踏襲している。文字が,ゴシック

体になってより見やすくなった。登場人物も親しみやすくなっている。

新版で特に目立つのは,安全に注意が払われていることである。ドライアイスは

なんといっても二酸化炭素そのものである。通常空気中にも二酸化炭素があると

いっても,その量は0.03%程度である。ドライアイスを扱う実験では,ひとつ間

違うと高濃度の二酸化炭素ガスにふれ,二酸化炭素ガスによる酸欠になることを

常に意識しておく必要がある。当然,換気に注意し,下にたまったガスに直接顔

を近づけない注意が必要だ。小さくても塊を飲み込むと凍傷になりかねない。

また,ドライアイスは固体であるが,気体になると750倍にも体積を増す。その

ことは気体の学習に興味深いことであるが,密閉した器に入れると危険である。

その〈危険〉を逆手にとった〈ばくはつ〉の実験もあるが,興味半分に他の器

で密閉して放置されると危険きわまりない。今回の本では,解説にそうした注意

事項がしっかりと書き加えられている。これで,こうした実験になれている教員

だけでなしに,公民館や図書館の職員,家庭のおかあさんでも,ドライアイスの

実験を楽しむことができるようになった。とはいえ,子どもだけでは危険を察知

できない場合もあるので,最低限「おとなの人といっしょにする」ことが前提に

書かれている。新版の発行で,ドライアイスで楽めるハードルがひとつ低くなっ

た。                   201208月刊  2,200

 

『ずら〜り イモムシならべてみると…』

  安田守/写真 高岡昌江/ぶん  アリス館 

 チョウやガの幼虫は,ほんとに千差万別で,野外で出会ってもなかなか

成虫と結びつかない。また,固体によってはとてもグロテスクなものがい

たり,指されて腫れ上がったりするものもあるので,イモムシはきらわれ

ものの代表でもある。

 しかし,この本を見ていると,そんな幼虫(イモムシ)も美しく見えて

くるから不思議である。ほんとうかと疑っている人は,ぜひ,この本を手

に取ってみては。

 まず見開きに,ずらりとイモムシたちが並ぶ。「なに、これ?」「イモ・

コレ」なんて書かれているが,ポーズもばっちりきまったイモムシのお姿

である。これを見て,色彩豊かな芸術劇場とは言い過ぎか。次は「しゃき

ーんとならんでごあいさつ」。代表18体のイモムシがポーズをとって横並

び。この横並びと同じ場所に,あとの蛹,成虫,卵も並ぶので比較がしや

すくなっている。次は「どっちがあたま?」「どっちがおしり?」。並ん

18体のおしりとあたま。個性豊かな顔かたちだが,どっちが頭かわか

ってくる。

次は,足の数に話しが進む。イモムシ(幼虫)の足の数は何本だろうか。

イモムシには昆虫の本性である本当の足とイモムシ足がある。それがわか

れば幼虫の動きも納得できる。当然,本当の足は……頭に近い方にある。

次は,脱皮の話。背骨を持たない生き物に課せられた変身の妙。「終れ

い」幼虫になると威風堂々,その行き着く先は……さなぎである。代表

18体のさなぎが決められた席についている。これも,色形さまざま。ま

わりの環境にまぎれるように作られている。そして,ついに成虫に脱皮,

ちぢんでいた羽根もピントのびてくる。成虫になったチョウやガに横一列

に並ぶ。よく見かける蝶やガもいる。これらのチョウやガとさなぎや幼虫

をふりかえって見比べると,自然界の多様さが一段と意識させられる。つ

づいて「たまご」が並ぶ。小さな卵も,ひとつひとつ個性的だ。まるで,

宝石のようなものもある。チョウ,ガの一生が楽しく眺められる本である。

           20126月刊  1,500円 アリス館 (西村寿雄)

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