わたし好みの新刊―   201211

『こまゆばち』 (かがくのとも) 
             澤口たまみ/ぶん 舘野鴻/え 福音館書店

 「かがくのとも」は,56才向きの科学の本となっている。たいていは,自然現象

をやさしく簡潔に書かれているものが多く,自然界に長年関心を持ってきた大人であれば

「ものたりない」と感じるのは仕方のないことである。しかし,ときどき,そんな大人も

はっとするような視点を描いている素敵な本に出くわすことがある。この「こまゆばち」

も,その素敵な本の一つである。

 ある種のハチが,ちょうなどの幼虫に産卵してその卵が寄主の体内で成長していく話

は,知識としては知っているものの,この本のページをくると思わず引き込まれてしまう。

舘野氏の淡い絵が静かに自然界の宿命を描いている。

最初,ケムシに食べられた木の葉を見つけてすかさずやってきた小さなハチ,近くに

ケムシがいることを察知する場面である。小さなハチは,ケムシを見つけるとすばやく

ケムシの背中に飛び乗り,自分の産卵管をケムシの体に差し込む。ケムシはハチに刺

されたことなどつゆ知らず,木の枝をゆっくりと歩いていく。しばらくすると,ケムシの

体の中に異変が起きる。となりページでは,体内のすみずで動ごめいている幼虫の様

子がリアルに描かれている。ここまで,侵かされているのかと少々びっくりさせられる。

次は,ケムシの体内からぞくぞく出てくるこまゆばちのウジ,ここは自然のいとなみだ

と冷静に絵を見る。出てきたうじむしたちはまゆを作り新たな命を造る。その場で寄主

のケムシは力つきて死んでいく。大きなケムシの命と多くのこまゆばちの命の交換なの

だ。野鳥の天敵からのがれたケムシも,小さなこまゆばちに命をねらわれるという悲

運な場面が描かれているが,これも自然のふつうの営みではある。とはいえ,じっさ

いに子どもたちはこの本をどう見るだろうか。解説では,子どもたちは「興味深くな

がめていた」と書かれている。解説書の〈寄生者〉の話も大いに興味をかき立てて

くれる。                 201210月刊  410

 

『親子で読もう 地球の歴史』 
              松井孝典
/文 柏木佐和子/絵 岩波書店 

 この本は,1997年に出た『おとうさんといく地球大冒険』1〜4巻の再版本

である。再版といっても,以前のようにB5版程度の4分冊でなく,A6版ぐら

いに小さくすべてを1冊にまとめた本となっている。それだけに文字は小さく

なり,分厚くなって子どもには読みにくい。しかし,中学生程度になると,か

えってまとまった本として読み易いというメリットがあるのかも知れない。内

容的には変わっていない。

 さて,このシリーズは1997年に出版された『お父さんが話してくれた宇宙

の歴史』『ぼくだってアインシュタイン』などとともに対話形式がとられてい

る。『おとうさんといく地球大冒険』は,専門家のお父さんと,子ども4人が

質問をしながら地球の謎に挑戦していくという構成である。探査船に乗って

大気空間や宇宙空間にまで飛び出したり地球の中に入り込むという探検物語

である。それだけに読んでいて臨場感があり楽しく読める。

 「太陽の一生」では

遊 あれは火星ですね。

父 そうだね。これから火星の影の中を通るから,ちょうど皆既日食のよ

うに,太陽のコロナがよく見えるぞ。

湊 コロナって何なの?

父 太陽の大気のいちばん外側の部分といったらわかるかな。コロナは大

気にしては非常にうすいけど,ものすごく温度が高くて100万度以上

もある。この熱いガスがまわりに流れだして,太陽風になっているんだ。

 恵 太陽の表面というのはどこなんですか?

といった書き方である。宇宙のなぞがわくわくしながら読める。  

               20128月刊  2,800円 (西村寿雄)

            
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