わたし好みの新刊―     201212

『南極のさかな図鑑』
        (たくさんのふしぎ)岩見哲夫/ぶん 廣野研一/え 福音館書店

 年中氷で閉ざされた南極海の海底にはどんな生き物がいるのだろうか,マイナス2度に

もなるという厳しい寒さの海にまともな魚類がいるのだろうか,とさまざまな疑問がよぎる。

この本をぺらぺらめくるとなんと数十種類の魚が紹介されている。零度以下の海底にもゆ

うゆう適応した魚たちがいるのにまず驚かされる。寒冷の南極海に棲むには,通常の魚類

の機能では生きていけない。どんな特別な機能を持っているのだろうか。

南極海にくらす魚には次の三つの特徴があるのだという。まずは,0度以下でも血液が

凍らないしくみがある。実験ではマイナス6度まで凍らないという。どんな機能が働くの

だろうか。血液が氷り始めたら,特殊なタンパク質が作用して体全体が凍ることを防ぐの

だという。なんといううまい仕組みだろうか。二つ目は,浮き袋がないという。「えっ,

浮き袋がないとどうして浮上するの?」と思われるが,南極海の魚は海水面に浮上する

必要がないとのこと。深海の温度が高いこともあり,南極海の魚はおもに海底を棲みか

にしているらしい。2500万年前に,巨大大陸から分離していった南極大陸近海では,

氷点下の環境にも適応して徐々に進化してきたという。生物進化の妙である。

さて,この本は,大半が南極海にいる魚の図鑑になっている。最初は「1.南極大陸

周辺の深い海底にすむ魚たち」で,何種類もの魚が描かれている。ふつうの海底のよ

うなカイメンやコケムシやクモヒトデ,ワラジムシの仲間も見える。特に秋と冬は真っ暗

闇の世界,そんな中でも,通常の海底とあまり変わらない生物がたくさんはりついてい

る。本では,代表的な魚の解説が続く。最初はスイショウウオ。血液は白く心臓が大き

い。ヘモグロビンがなくても,酸素がとけこんだ血液を強い心臓で循環させているという。

なんとうまい機能だろうか。また,海底で口の下に固くのびたひげをたくみに使う魚もい

る。その長いひげは海底にそって動かし,エサのように見せて獲物をおびきよせる機能だ

という。人知らずの深海でさまざまな進化の機能を兼ね備えた魚たちが優雅に?暮らして

いるとは,地球は広いものである。        201212月刊  700

 

『いしかりがわ』  村松昭さく    偕成社 

 2009年に出版された『ちくごがわ』『よしのがわ』などに続く〈日本の川〉

シリーズである。

今回の本は,特に広大な北海道の自然の中で長い距離を流れる石狩川の源流か

ら海までの情景を描いている。ページを繰る毎に,広い北海道の風景が次から

次へと展開されていく。例によって,神さまと女の子が会話風に語り継いでいく。

 まず初めは大雪山の谷筋,石狩川の源流である山頂の火口湖が描かれている。

北海道の尾根らしく,ヒグマやエゾシカ,シマフクロウ,キタキツネなども顔

を出す。北海道の特徴は,なんといってもアイヌの人たちの生活が垣間見られ

ることである。だいせつざんは〈カムイミンタラ〉〈かみさまたちのあそぶと

ころ〉だそうだ。そんな川にもダムが見えてくる。ページを繰ると大きなダム

湖が出てくる。広大な大雪ダムである。こんなところでも,人の手で大きく自

然景観が変えられている。大雪ダムを出た川は広い火山台地を削って流れ下る。

火成岩柱状節理の岩肌が各地に広がる。オコジョやクロテン,シマリス,ライ

チョウ,ナキウサギなど氷河時代のなごりの生物も顔を出している。やがて川

は流れ下り,人家が多い旭川市に流れつく。ここで,魚のページが挟まれている。

石狩川は魚の種類も多く,なんと100年前まではチョウザメもいたという。

また,昔は旭川市にまでサケが遡上してきたとのことで,アイヌの人びとのサ

ケ漁の様子が描かれている。長い棒で水面のサケをたたきのめし次々とを狩猟

していく。圧巻である。今はない昔の光景である。旭川を過ぎた石狩川は,屯

田兵の耕した広い耕作地を下る。途中,「十津川町」という地区も通る。昔,

災害を受けた奈良県十津川村から人々が開拓したという。やがて石狩川は,か

つて蛇行していたなごりの三日月湖のそばを流れ札幌市内を流れて石狩湾にた

どり着く。長い長い川の旅である。     

 20128月刊  1,400円 (西村寿雄)

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