―わたし好みの新刊― 2013年1月
『エジソンと発明』 Thomas EDISON (ジュニアサイエンス)
大森充香/訳 丸善
エジソンの生涯と数々の発明・発見の経過がくわしく書かれている。ジュニアサイ
エンスシリーズで,帯には「本書を通して,好奇心旺盛な子どもたちの創作意欲をか
きたてるでしょう。将来、発明家や科学者になりたいと思う子どもたちのために書か
れたものです」と書かれている。
エジソンの子ども時代から話が始まる。エジソンは小学校時代からほとんど学校に
はいかず,母親が与えた本などで勉強した。フランクリンにしろ,ファラディーにしろ,
学校外での体験が発想を豊かにしている。エジソンは青年時代すでに電信技師とし
て身を立てモールス符号の印字機などの発明を手がけた。それで得た大金をもとに
「発明工場」を立てて起業家としての道も歩む。
しかし,エジソンの願いは人々に役立つもの作りたいという発明家魂にあることが
多くの場面で語られている。電話機の発明などは,人々が遠方にいても会話がで
きるように願って実用化した。また,針と振動板を利用した蓄音機の発明も,生徒
が国語や外国語などの学習で役立てられるように,盲目の人の理解に役立つように
と考えて思いついたという。そういう中で電灯を発明し,より多くの人に光を届ける
ために電灯会社を設立した。しかし,直流方式を取り入れたエジソンに交流方式を
広げようとするウェスチングハウスが立ちはだかった。発電方式の熾烈な戦いが始
まった。遠くまで送電するには直流方式は不利で,ついにはウェスティングハウスの
交流システムが社会に受け入れられていく。送電事業の失敗にもめげず,エジソン
はさらにいくつもの発明に取り組む。映写機やトーキー映画,磁石による鉱物選考
機,ベルトコンベアーの発明など,84才で命がとぎれるまで数々の発明を続けた。
この本を読んだ子どもたちに発明発見の醍醐味が伝わるのではないか。
随所に関連する実験コラムがある。電信機やパラパラまんがなど,作りながら楽し
く読める。技術立国の将来にかけてもぜひ中高校生に読んでほしい1冊である。
2012年5月刊 2,800円
『桜島の赤い火』 (たくさんのふしぎ)
宮武健仁/文・写真 福音館書店
ページをくると,桜島火山の真っ赤な噴火が目に飛び込んでくる。まさに
『火山は生きている』(科学のアルバム)の世界である。ふつうこういった
噴火の写真は危険地近くでの撮影が多い。著者の宮武さんは,大隅半島より
の撮影ポイントから望遠レンズで噴火の様子をねらっていた。それにしては,
なかなかの迫力のある写真が多い。
桜島は,鹿児島からみるとどっしりと落ち着いて雄大な姿を見せている。
しかし,それは桜島の面の姿である。本来の桜島は,大隅側から見た飛び散
る溶岩や火山弾や噴火の姿である。それらをこの本では見事に写し出してい
る。徳島から桜島を何度も訪れた宮武さんは,大隅半島側から噴火が見える
昭和火口に望遠レンズを向ける。夕刻も過ぎて周りが暗くなってくるとやが
て赤い火映が見えてくる。地鳴り,山鳴りが聞こえるのを我慢していると,
突然真っ赤な火が天井に噴き出した。周りには真っ赤な石が火花をちらしな
がら斜面を転がっていく。約10秒ほどの躍動した桜島のドラマである。そ
の経過を見事な撮影でとらえている。山全体が闇になったすぐその後,火口
から再び赤い火が飛び散った。前回より大きな噴火である。
もう一つこの本のすばらしい所は,非常に珍しい火山雷がいくつも写し出
されていることである。雲と火口の間に幾筋もの雷放電が織りなす電光が写
っている。噴火とは違った別世界の光景である。この写真はおそらく本邦初
公開ではなかろうか。貴重な写真である。
著者は,自分が撮りためた写真展を鹿児島市で開いた。意外にも鹿児島の
人たちがとても興味深く見ておられたという。地元にいても,なかなか真っ
赤な噴火場面を見ることが少ないからであろう。著者は小学校にも訪れ桜島
の生きた姿を子どもたちに見せている。島の人たちとも交流を重ね,人の生
活も含めてまるごと火山地桜島の姿を浮き彫りにしている。すばらしいドキ
ュメンタリー写真の本である。 2013年1月刊 700円