―わたし好みの新刊―     20135

『スズメの謎』      三上修著  誠文堂新光社

 著者は,多くの人に知られているわりには謎の多い「スズメ」に研究の焦点を当て,

スズメ研究にまつわるさまざまな話題を書き綴り,身近な研究の意味を読者に投げか

けている。

著者がはじめた研究テーマは「日本にスズメが何羽いるのか数えてみたらどうだろう」

ということだった。しかし,このテーマはあんがい難しい。スズメが日本に何羽い

るかといっても,いったいどうやってスズメの数を調べるのだろうか。街を歩いて目

についた雀の数をカウントしても正確なデータとはならない。カウントしたスズメが別

のスズメか区別がつかない。そこで著者が考えたのは,スズメの巣をカウントするこ

とだった。といってもなかなかスズメの巣など見つけにくい。スズメの巣はたいてい

人工物のすき間に多いからだ。しかし,著者の経験を生かした独自の調査法が考え

出されていく。といっても,わらをくわえたスズメの行き先を推定するなど根気のいる

観察である。そのようにして推定したスズメの数は全国で1800万羽と出た。「この

ように推定した値はどれくらい、本当のスズメの値を反映しているでしょうか」と著者

も疑問を投げかけているところがおもしろい。いや,それぐらいおおざっぱな値であ

っても,およその日本のスズメの数が推定できるというのも一つの科学である。

 続いて「近年,スズメの数が減少している」という話題を取り上げている。本当にス

ズメの数が減少しているのか,著者なりにいろんな角度から推計していく。スズメによ

る農業被害の実態や自然環境保全基礎調査記録など,さまざまなテータからスズメの

減少を確認していく。それが確認できれば,こんどは「なぜ、スズメは減少している

のか」である。これも,その原因を推測していく。こうした社会学的な科学研究の方

法についても一言ふれている。

 最後に,大衆にとって身近な研究をすることの意味を説いている。「自分の研究

歌謡曲のようなもの」という著者の主張には親しみが持てる。研究の楽しさが伝わっ

てくる。所々にちりばめられているスズメの写真はすばらしい。  

      201212月刊  1,500

 

『わが家は野生動物診療所』(たくさんのふしぎ 20134月号) 

竹田津実文 あかしのぶこ絵 福音館書店

この本を書いた竹田津実さんは,もう50年ほど前に北海道に住みつき,野生動物の保

護活動をしながら,厳しい北の地に棲む野生動物の姿を撮り続けている獣医師である。

特にキタキツネの生態調査を続けるなどして多くの動物写真本を出版されている。

今回の本を読んでみるとタイトルの名とは違った魅力にとりつかれた。タイトルは『わが

家は野生動物診療所』となっているが,事例として出てくる〈野生動物〉のほとんどは

野鳥である。

この本では,身近な野鳥を保護,診療することの意味について考えさせられることが多い。

私の経験からも,子ども達がよく拾って持ってくる〈野生動物〉は野鳥の雛か衰弱した

鳥である。「なんとか助けてあげたい」という人間の気持ちと自然界に生きる野鳥の立

場とどう整合させるか,難しい問題がはらんでいることがこの本から読み取れる。

最初の話は40年前の話で,翼の一部の骨が欠損しているトビの話である。小学生の兄

弟が持ってきたトビ,「飛べるようにしてください」という兄弟に励まされて著者は,兄

弟のアイディアも取り入れながら懸命にトビが飛べる訓練を重ねていく。そのことがもと

で,著者は野生動物のための診療に本格的に取り組みはじめる。自宅は「野生動物診

療所」に様変わりしていく。

次にキタキツネの話があるが,続いてカワセミのヒナの話がある。野鳥のヒナを育てるの

はエサさえうまく与え続ければさほど難しいことではない。しかし,問題はいかにして〈野

生〉の本能をとりもどすかにある。あくまで野鳥は,自力でエサを採ることを学習しなけ

れば自然界で生きていけない。そのための訓練に工夫がいる。続いてカモの〈捨て子〉

の話も出てくる。「〈捨て子〉ではなく誘拐だ」という言葉は鋭く本心をついている。水

鳥といわれているカモでも,そのまま成長しただけでは水中で浮かぶことができない。自

然界では親がうまく水に浮く術を教えているんだと納得させられる。いつもの竹田津実さ

んの写真に代わって本書はあかしのぶこ(増田信子)さんの絵が生きている。

                 20134月刊  700円(西村寿雄)

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