―わたし好みの新刊―     20137

 

『クモの巣観察図鑑』  新海明著 谷川明男写真   偕成社

 野外ではクモにもよくお目にかかるが,その区別はなかなか昆虫のようにはいかない。

よく見ればかなり形が違うのだけれど,たいていは小さくてルーペでながめても視点をつ

かんでおかないと区別しにくい。どれも頭と腹部に分かれていて足が8本,体型的にはそ

んなに大きく変わることはない。ジョロウグモやコガネグモはさすが形も大きく見栄えがす

るが,たいていは小型でどれも似たり寄ったりというイメージが強い。ときどき,大型のア

シダカグモを屋内で見てびっくりするのが日頃のクモとのおつきあいである。

 では,多数の小さなクモをどのように区別するか,その目の付け所は〈巣〉にあるとい

う。副題に「巣を見れば、クモの種類がわかる!」とある。「なるほど」,巣に目をつ

ければいいのか。たしかに,クモの巣をよく見ると,同じようで同じでない。はじめに下

記の言葉が並ぶ。

軒先や庭の木のまわりで、せわしなく動きまわるクモに目をやり、数学も知らないかれ

らが描くみごとな幾何学模様に見とれ、その作業を飽きずに眺めつづけた人もいるだろう。

芸術品のようなクモの巣を鑑賞したら、こんどは「科学の目」で、くわしく観察してみよう。

巣の形や構造は、クモの種類によってちがっている。だから、注意ぶかく巣を調べること

で、クモの種類があるていどわかるのだ。」

とある。クモの巣を芸術品と見,幾何学模様と見るところに親しみがわく。

この本では,クモの巣の形を「円形の巣」「おまけ付の円形の巣」「一部が欠けた円

形の巣」「ドーム型の巣」「ハンモック型の巣」「シート型の巣」「その他の形の巣」

と分けている。一口に〈円形〉と言っても,整然

としたものやアバウトなものとさまざまである。巣のまん中にゴミ捨て場のある巣や,身を

隠す〈かくれ帯〉をつけた巣もある。小さなクモも多種多様だ。「ハンモック型の巣」に

は、粘りけのある糸はどこにもないという。

 ふつう,クモの巣は庭先や植え込みのあるところに見られるのだが,建物や人工物の周

りにもさまざまなクモの巣がある。少しのクモの巣にふれると飛び出してくるクモもいる。

振動感知器の役目をする巣もあるらしい。

「ほめてくれる人が誰ひとりいなくても、クモはせっせと巣をはり、ひっそりと生きている」

スプレ―を持ってクモの巣を観察したくみに生きている小さなクモたちの姿にふれてみる

のもおもしろい。もちろん、クモには巣を作らないクモもいる。それらについては他の本

を見るとしよう。                               20133月刊  1800

 

・『吹き矢で科学』 (ものを動かす力) 板倉聖宣・湯沢光男著 小峰書店 

仮説実験授業を提唱した板倉聖宣氏こと「いたずらはかせ」の科学読み物シリーズが刊

行されだした。今回は,全5巻。このシリーズ刊行にあたって,板倉聖宣氏は次のよう

に書いています。

「子どもたちは、興味を持てないのに「こうしろ,ああしろ」と言われるのが嫌いです。い

や,私だって大嫌いです。

そこで私はこのシリーズで,思い切り楽しい話ばかりを取り上げて,みなさんを科学好き

にしたいと思いました。」

楽しい読み物シリーズとして刊行されています。今回は『よじのぼる水』『電気のとおり

道』『吹き矢で科学』『いろいろな月』『あかりと油』の5巻です。

さて,この『吹き矢で科学』は,ストローを使って綿棒吹き矢でさまざまな実験を繰り返

しながら,奥深い力学の世界にまで思いをはせるという壮大な〈科学読み物〉です。とい

っても,けっして難しい話ではありません。初めは,ストローをつないでいきながら綿棒の

飛ぶ強さ(距離)予想して実験していきます。まず,こんな問題があります。ストローの

手前に麺棒を差し入れて,ストローを吹く実験です。

〔問題2〕ストローを2本つなぐと,1本のときとくらべて,どれぐらい飛ぶだろう?

  予想 ア.1本のときより,遠くまで飛ぶ。

イ.1本のときより,飛ばなくなる。

ウ.あまり変わらない

 さて,皆さんの予想はどうでしょうか。ここで,何人かの討論が出てきます。読者は自分

の考えは誰の意見に賛成なのか考えながら読み進めます。そして,実験。結果を知って読者

も納得できるのです。続いて,次の問題へと続きます。このようにして「力積」の考えを知り

ます。すると,いろんな場面で「力積」を利用していることに気がつきます。ピッチャーの投

球ホームや槍投げの姿勢,はては,地球の引力,まさつ力,だるま落としのなぞにまで話

題が広がっていきます。後半には,くわしい解説もあります。子どもから大人まで楽しめる

本です。                              20133月刊  2,800

              「新刊案内7月」