―わたし好みの新刊―     20138

『この羽 だれの羽?』         おおたぐろまり(太田黒摩利)作・絵 偕成社

 非常にていねいに描かれた細密画の鳥図鑑である。類書はないことはないが、これほど子細にて

いねいに描かれた図鑑は他にないのではないか。著者は、イラストレーターではあるが日本野鳥の

会などにも所属され野鳥についても造詣が深い方である。

 「鳥の羽みつけた!」からページが始まる。公園に落ちていた一枚の鳥の羽が描かれている。薄

茶色の少し大きな窒セ。どの鳥のどの部分の羽だろうか。「どんな鳥の羽だろう? まわりにいる鳥

の羽かもしれない。探偵になったつもりで しらべてみよう」と、文章が添えられている。まわりには

キジバト,ツバメ,ハシブトガラス,シジュウカラ,ヒヨドリなどが描かれている。さて,どんなふうに羽の

持ち主を見つけていくか。次ページに「羽の持ちぬしはだれ?」がある。まず,羽の大きさから見当

をつけていく。そして色や形は?とさぐっていく。

その前に鳥の羽について基本的なことは知っておく必要がある。「胴体をおおって生える 小さくて

ふわふわした羽」なのか「つばさや尾に生えている 大きくて じくのしっかりした羽」なのか。

拾った羽の長さは14.5センチ,かなり大きい方だ。このような羽を持つ鳥はハシブトガラスかキジ

バトかドバトに絞られてくる。色合いから判断してキジバトのつばさの羽であることがつきとめられ

ていく。

ここで,鳥の「羽の大きさや形のちがいと役割」として,見開きでえがかれている。〈体をまもり、

体温をたもつ羽〉〈飛ぶための羽〉と大別される。また,その中でもさらに場所によって機能や形が

異なっている。これからいよいよ「鳥と羽の図鑑」としてまとめられていく。ヒヨドリ,スズメ,シジュ

ウカラ,メジロと続く。ムクドリ,ハクセキレイ,ツバメ,コゲケラ,と続きキジ,チョウゲンボウ,フクロウ

と続く。それぞれの野鳥の個体と各部分にある羽がていねいに描かれている。さすが,キジ,チョウゲ

ンボウ,フクロウの尾羽や風切り羽は大きくて模様もダイナミックだ。いつかこんな羽を拾えたらと思い

がつのる。

そのあと,「鳥の羽の落ちていたわけ」「鳥の羽のいろいろな役割」「羽の手入れ」などと絵と話

が続く。最後に「鳥の羽のコレクション」として,拾った羽を洗ってファイリングするまでの手順や注意

点を書いてくれている。この本では,ごく身近な十数種の野鳥だけが出てくる。それだけにより親しみ
を感じて眺められる本
である。                  20134月刊 1600

 

・『水のコレクション』        内山りゅう 写真・文   フレーベル館

 水にまつわる美しい写真本である。水は,日本人にとってはごくあたりまえのありふれた存在である。

それだけに,美しいし水のありがたさはつい脳裏から離れいく。しかしこの本は,水の透き通った美し

さと生き物にとってかけがえのない水についてたっぷりと知らせてくれる。カバーに

「淡水=清らかな水に魅せられて、身近にある水環境によりそい、水の中に入って シャッターを

切り続けてきた 写真家 内山りゅう。この本は、形のない水そのものや、そこにすむ生きものた

ちの姿を集めたコレクションです。みやなさんも清らかな水の魅力にふれてみませんか?」

とある。まさに,水のコレクションである。本の構成は「身近な水」「清らかな水」「旅する水」と

分けられている。まず「身近な水」。〈水をさがそう!〉では意外なところできらりと光る水がある。

かたや清流の大量の水,

子どもたちの遊びの場だ。冬期での〈冷えて固まる水〉は凛とした表情を見せる。次の「清らかな水」

では,まず〈はねる、流れる水〉がある。水が形となって現れる瞬間だ。躍動する水の姿が美しいと

同時に力強い。もっと量が増すと恐ろしい水に変身することもある。「清らかな水」の本命はなんとい

っても〈生きものをはぐくむ〉ことにある。ここで清流にすむ〈生きものコレクション〉が登場する。

今はもうほとんど見られなくなった生き物たちも顔を見せる。オオサンショウウオ,タガメ,ヌマガレイ,

ニホンアカガエル,ニホンザリガニ,ゲンゴロウ,ハコネサンショウウオ等々。この大切な命の水をいつ

までも維持できる環境がすばらしい。

次は「旅する水」,ぽたぽたと一滴一滴落ちる水が旅のスタートだ。森の中で生まれた水は川を作

って流れ下る。

地中からしみ出した水が集まって岩の間をかけめぐる。滝や浅瀬を過ぎて川の中流へ。深い淵や瀬を

作って下っていく。やがて,水路を通じて人と自然をつなぐ里山に導かれる水もある。里山は多様な生

き物の宝庫でもある。これらの水も最後は海にたどり着く。そして,また水蒸気となって空へと水循環の

旅に出る。

 地球上の水は永遠になくならないのだろうか。「いつの日にか、海がなくなってしまう」と予測する

科学者もいる。そんなことはさておいて,暑い一時,この本で水と戯れているとついつい暑さも忘れてし

まう。                   20135月刊  1,600円(西村寿雄)

 

                           「新刊案内8月」へ