わたし好みの新刊     20141


『カマキリの生き方』(NEOの科学絵本)    筒井学著  小学館
 カマキリの美しい写真本である。カマキリについて書かれた科学絵本や写真本は類書も多い。
しかし,この本は「生きる昆虫」の宿命が各所で感じさせられる。最後の頁で著者は語る。

「カマキリが生きる背景には、えさとなって命を落とすたくさんの虫たちの存在があります。
そして、カマキリ自身も、大きなハンターには、つねに食べられてしまう立場なのです。
カマキリを見ていると、自然界の「食物連鎖」のしくみがよくわかります。」

 著者が語るようにこの写真本は虫たちの食いつ食われつの連続場面集である。

 5月になると生き物たちが盛んに活動する季節を迎える。カマキリも卵しょうからぞくぞくと
幼虫が生まれてくる。その数200匹とか。一齢幼虫になるとさっそくハンターとして小さ
な虫を捕らえる。しかし,その幼虫も他の虫たちにねらわれ命を落としていくものが多い。
生き残った幼虫はたくましくなり大きな蝶もねらえるように成長する。しかし,大きくなって
もより大きな捕食者にねらわれている。カナヘビにパクリと食べられている写真は生きるも
のの厳しさを象徴している。カマキリも8月を迎えるとやっと最後の脱皮を終え,羽を持っ
た成虫に変身する。鋭いカマ(鎌)を持った堂々たる親になる。もう,怖いものなしで大き
なバッタもがっしり捕まえる。かと思えば,待ち伏せして花によってくる蝶などにも鋭い足
をのばす。まさに力強い生き物ハンターである。カマキリもやがて交尾期を迎える。雄は雌
を求めて交尾にいどむ。なんとそこには,頭を失いながらも交尾を続けるオスの姿が写し出
されている。オスは交尾中に雌に食べられているのである。

 そこまでして本能に生きる生き物の性の強さが見事に写し出されている。文章もやさしく
語られている。                  (2013,7刊 1,300円)

 『日本の川 よどがわ』(日本の川シリーズ)    村松昭著   偕成社
 日本の川シリーズ〉第6作である。その地域,地域の現在の地図に合わせて歴史上の出来事な
どを組み入れ鳥瞰絵図として描かれている。お話は対話形式でやさしく語りかけている。

 本書『よどがわ』も,絵巻物のように上流から下流へと話が展開されている。まずは,源流から
始まる。「よどがわ」は他の河川と違って日本一大きい琵琶湖を源流としている,と言いたいのだ
が本書ではその琵琶湖へ注いでいる高時川を源流としている。琵琶湖には460もの河川が流れ込
んでいるので近江平野各所から流れている川がすべて源流である。

 さて,琵琶湖の出口は「瀬田の唐橋」のある瀬田である。すぐ下流に洗堰という水門が作られ
下流の洪水を調節する役目を担っている。あまり放流を減らすと琵琶湖の水位が上がり漁業被害が
出るなど難しい判断にせまられる。「瀬田川」は「宇治川」と名を変え宇治へと下る。かつて木材
が奈良の都にまで運ばれたという。途中にある喜撰山ダム湖には昔からの揚水発電所がある。夜
の余った電気をうまく利用している。やがて川は平等院を超え「おぐらいけ」に入る。ここは伏見港
で賑わった交通の要所で江戸時代の鳥瞰絵図がすばらしい。

 やがて宇治川は八幡で,木津川,桂川と合流する。ここから「淀川」と名を変える。ここからは
都市部の話が続く。淀川には「ワンド」と呼ばれる特異な入江が点在する。明治時代に蒸気船を
通すため川幅を狭めたのがきっかけという。今では貴重な生き物の生息地となっている。大阪市に
入ると淀川はいくつかに分かれ水流の便を良くし〈大大坂〉の基を築いた。地勢と歴史が織りなす
楽しいパノラマ本である。                2013,8刊 1,400

                                                   (西村寿雄)

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