―わたし好みの新刊―   2014年3

『動物を守りたい君へ』 岩波ジュニア新書 高槻成紀著 岩波書店

  長年,野生鹿の生態を研究してきた著者が,中高校生に動物との共存をやさし
く語りかけた本である。テーマは野生動物と人間とのかかわりであるが,初めに
「ペットとのつきあい方」から入っている。飼い主が動物をペットにしている行為
は必ずしもペットの気持とあっていないことがあるという。愛玩動物愛好家も一読
の価値がありそう。次は家畜の問題である。人間が動物を食べるために効率を高
めていることに考えさられる。特に「肉工場」と言われている畜産の方法には問
題を投げかけている。せめて,「自分の命が他の動植物によって支えられている」
ということが実感できる生産体制であることが大切だと著者は語りかける。

 次は野生動物の問題。糞虫パワーのおかげで動物の死体も見事に分解されていく。
ここにきて「野生動物をどうして守るか」を考えさせられる。「猛獣」と呼ばれてい
る大型肉食獣は実は〈一番ひ弱な動物〉であるという。日本のトキの例をあげながら,
大切な里山,雑木林の存在の意味が説かれている。「動植物と共に生きるために」
の項では,震災後も生き残っているナラの木の話が書かれている。福島でのコナラ
林は災害にも強いという。

 最後に「サケの川のぼり」の話がある。「サケは海の物質のカプセルだ」という。
サケの体は,蛋白質やカルシウムとともに大量のリンや窒素も山にもどしている。サケ
はただひとつ〈海と森のリンクを担っている生き物〉とのこと,サケが森林を育ててい
るのだそうだ。そのことを暗に知っていたアイヌの人のすばらしさも説かれている。動
物を守ることは地球を護ることであり,原発は地球の倫理としても許されないことだと
しめくくっている。

ペットや野生動物とのつきあい方についていろいろ考えさせられる一冊である。

                                       (2013,10刊 840円)

『カリブーをさがす旅』 (たくさんのふしぎ)前川貴行文・写真 福音館書店 

 著者の前川さんは世界中の野生動物を写真に収めているベテランカメラマンである。
後に綴じられている〈作者のことば〉に「
この仕事は、動物たちのリズムに自分を合
わせることが、なにより大切なのです」とある。この本は,極寒のアラスカでたく
ましく生きる野生動物によりそった迫力みなぎる写真集である。

 まず,5月に北極圏に近いアラスカの村を訪れる。道がないので飛行機での訪問だ。
雪をかぶった山々が取り囲む極寒の地にも人は住んでいる。エスキモーの子どもた
ちが笑顔で出迎えてくれる。カリブーの毛皮をぬっているおばあさんは語る。
「私たちは,カリブーの生肉を食べ,カリブーの毛皮を使って服や敷物を作ってきた」
と。アラスカのエスキモーはすべてカリブーの恵みに助けられて生きているのだ。

 やがてエスキモーの狩りに著者も同行する。途中,たくさんのカリブーの角と骨が
捨てられている現場を通る。かつての狩りで解体されたカリブーの跡である。やがて,
数頭のカリブーが見える。エスキモーはすかさずライフルをかまえカリブーをしとめる
。エスキモーの若者は倒したカリブーをすぐにナイフで解体に取りかかり,内臓を口に
ほうばる。自分で食べるために動物を殺したことのない人間には理解できない光景が展
開する。しかし,それが「自力で生きる者の自然な姿」なのだ。

 著者はさらに北部へと向かう。今度は,雄大な空間でのカリブーの撮影旅行だ。飛行
機を使ってさらに北部へ。そんなところにも生物学者やハンターが利用する宿泊施設も
ある。カリブーの群れに会うためにさらに著者は動き回る。広大なアラスカ台地を背景
に野生動物の息づかいが感じられるレポートである。     (
2014,02刊 700円)


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