―わたし好みの新刊―   20144

 

『田んぼの不思議』    安室 知著   小峰書店

  〈田んぼ〉は,稲作を目的として日本各地に広がっている。著者は「なぜ,

日本人は稲作を選んだのか?」と問いかける。日本の気候風土が稲作に適し

ていたからだろうか。米の味が日本人に適していたからだろうか等自問する。

山の多い日本で田を切り開いてまで稲作が広がった魅力は何なのだろうか,

改めて考えさせられる本である。

 著者は稲作農家を回ってお年寄りから,かつてあった田んぼの思い出を聞

き出していく。まず,聞かれたのは〈魚捕り〉の楽しさだったという。農薬や

化学肥料がまだ使われていなかった頃の〈田んぼ〉は多くの生き物の生息地

だった。水田では,ドジョウやコイ,フナ,ウナギといった小魚が多く,稲作

と魚捕りはきってもきれない関係にあった。

 次に浮かび上がってきたのは,〈田んぼ〉はガンなど渡り鳥の狩猟の場だ

ったことだ。ガンやカモは,稲作農民にとっては冬の重要な獲物だった。そし

て,カモ捕りは農民の楽しみの一つでもあった。あわせて,工夫を凝らしたさ

まざまな水鳥狩猟の方法が紹介されていく。

さらに〈田んぼ〉の魅力として紹介されているのは〈畑として使われている

田んぼ〉である。今でこそ見かけなくなったが,かつては田んぼには芋(田

芋やくわい)が植えられ,畦には豆が植えられていた。また,裏作として田

んぼで麦が作られ,水稲だけでない大切な田んぼの利用法だった。裏作は

年貢米以外の農家の貴重な収入源だった。

 終半,〈水田生態系〉で培われてきた技術や文化が,安全な食を求める現

代人の中にも息づいている事例を紹介している。各地で,かつての水田漁労や

水田狩猟が見直されているという。〈田んぼ〉は,人と自然が結びついた大切な

生活空間であることを再認識させられる一冊である。        

             (2013,11刊 1,400円)

 

『どんぐりむし』    藤丸篤夫/写真 有沢重雄/文   そうえん社 

 どんぐりは自然工作の教室ではよく利用されている。秋になるとたくさん

のドングリが部屋に持ち込まれてくるが,やがて,箱の中はたくさんの「虫」

うごめくことになる。この動き回っている幼虫が〈どんぐりむし〉ことシ

ギゾウムシである。

 本書は,シギゾウムシの生態を写真に収めた低学年向けの写真本である。

全文字かな書きで文章もわずかであるが写真がシャープですばらしい。いく

つもの昆虫本を手がけられている藤丸篤夫さんならではの力作である。

 見開きの〈どんぐりむし〉の写真が次々と出てくる。まずは,立派な〈ド

ングリむし〉の顔。さすが口先は丈夫そうだ。この口で堅いドングリの皮を

破ってきたのだ。本文に「しろくて いもむしみたい。あしが ないんだね。」

とある。この幼虫には足がない。動いているのは腹部のぜん動運動だろうか。

次は,まだ,ドングリの中におさまっている〈ドングリむし〉の姿である。

ドングリの中身を半分以上も食べている。いよいよ成虫が登場する。成虫は

ドングリがまだ青いうちに口先で穴を開け,おしりの産卵管を突っ込んで産

卵する。小さな虫の力でよくもドングリの皮を突き破るものだ。シギゾウム

シの体がさらにアップ写真で登場してくる。長い口がたくましい。口先には

少し太めの〈あご〉が着いている。この〈あご〉がドングリの皮に穴をあけ

ていくのだ。そのとき,長い触角はじゃまになるがうまく収納される。シギゾ

ウムシは,地下でさなぎになり春になると地上に出てきて交尾するサイクル

で生きている。同じなかまのハイイロチョッキリの写真もいい。子どもから

大人まで〈どんぐりむし〉と仲良しになれる一冊である。

(2013,11刊 1,200円)西村寿雄
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