わたし好みの新刊   201410

『育てて発見! 「トマト」』

  真木文絵/文 石倉ヒロユキ/写真・絵 福音館書店

 著者は農業関係の専門家ではなく,童話作家兼園芸野菜エッセイストというかわっ

た肩書きの人である。市民農園などで野菜作りを15年以上も楽しんでこられたという。

それだけに,初めて野菜作りを楽しみたい子どもたちにはちょうどよい情報量の本であ

る。おまけに,石倉ヒロユキさんの写真がトマトの魅力を十分に引き出している。

 最初に,ハウス農家でのトマトの栽培写真が出る。「トマトは強い日光が大好きで、

しめりけが苦手」とある。トマト栽培に大切な視点に気づかせてくれる。次においしそ

うなトマトの実物大写真が広がる。思わず写真の上をさわりたくなる。トマトの皮と中

身の写真と解説が続く。「新鮮なトマトの皮の表面をよく見ると細かい毛が生えている」

とクローズアップ写真がある。なるほど,これでアリやナメクジなどの外敵を防いでい

るのかと納得させられる。次はトマトの中,意外とうまくできている。おいしいゼリー

は実はタネを育てるゆりかごなのだ。タネの取り方まで書かれている。トマトを育てる

ページに入る。まずは,タネをまくことから始まる。ふつうはトマトの苗を買ってきて栽

培するのだが,これでまた楽しみが増える。タネをまいて芽生えからどんどん大きくな

っていく様子が順次写真で紹介されていく。成長していく根の状況もよくわかるように

写されている。

 さて,一つ二つ花芽がつくまでに成長すると,ポットから畑に苗を植えていく。

「花が咲いている向きを手前にしましょう」とはいいアイデアだ。あとは,支柱を立

てて苗の成長を楽しむ。トマトの栽培でよく言われるのが「わき芽をつまむ」ことだ。

わき芽をほっておくとどのように育っていくのか,その様子は後半に紹介されている。

さらに,トマト伝来の話やトマト料理についても紹介されている。最後に丁寧な解説

がつけられている。子どもから大人まで楽しめる「トマト」の本である。

2014,3刊  1,200

 

『いちから聞きたい 放射線のほんとう』 

 菊池誠・小峰公子対談   筑摩書房 

 縦書きで対話を元にした語り口調の本である。放射線の本とはいえ,ほとんど図

や数字が出てこない。出てくるのはイラスティックな元素の周期表といくつかの小さな

挿し絵ぐらいである。著者の一人小峰さんは郡山市に実家がある作詞家・ミュージシ

ャンである。小峰さん自身は震災に合われなかったが,実家は放射線避難地域に指

定され,家族や近隣の人たちの苦難を目の当たりに見てこられた。そうした人たちの

思いを胸に,放射線とはいったいどんなものなのか,放射線にはどんな危険があるの

か,難しい話ではなく本当のことを知りたい,そんな気持ちで物理学者の菊池さんと

ネットでやりとりされていた。その内容が元になってこの本は生まれた。

 最初の「自然と科学とわたしたち」で「放射線ってなんだろう」がある。

菊池「シーベルトって今は普通に使う言葉になっちゃったけど、知ってた?」

 小峰「全然知りませんでしたよ。Sv? エスブィってなに?って思っていましたもの。

私の実家はそのエスブィが年間10ミリシーベルトぐらいと言われました。

 菊池「小峰さんの実家は郡山市の中でも放射性物質の汚染がひどかったところだね」

などと話しながら,放射線の話へ。第一部「放射線ってなんだろう」では「みんなつ

ぶでできている―原子と原子核のこと」「放射線はやるせなさエネルギーーα線のこと」

「電子ビューンーβ線のこと」「光って、つぶつぶ―γ線のこと」「ダイスをころがせ

―半減期のこと」など最小限の知識がやりとりされている。第二部「放射線とわたしたち」

では「放射線ってどういう影響があるの」「遺伝子放射線のこと」「放射線とガンのこと」

など,被災地の人たちが一番知りたいことが語られている。「放射線とわたしたち」で

終わっている。リスクをどう考えるかいろいろ考えさせられる。

2014,3刊  1,400

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