わたし好みの新刊  201504

 

『ふゆのむしとり』  はたこうしろう・奥山英治/作   ほるぷ出版

カバーの内側にある次の文で《ふゆのむしとり》を誘っている。

 「あれ?/ふゆに むしとりあみもって、/おにいちゃん どこいくの?

ザック ザック ザック。/しずかな ふゆのもりに/

ふたりの あしおとが なりひびく。/いきものなんて いるのかな。」

春から秋にかけて虫の活動する季節ならともかく,あえて《ふゆのむしとり》という題名で

ある。もちろん冬も虫は生きているのだが,幼虫か卵で冬を越す種が多く成虫でも隠れ場

でじっとしていることが多い。そういうこともあって冬場はふつうには虫は目につきにくい。

そこをあえて「ふゆのむしとりに行こう」というのだから,マニア向けならまだしも,小さな

子どもを対象の本としては異色の本と言える。見方を変えれば,目的意識的に動けばふだ

ん気がつかない生き物も見えてくる「発見・探検」の一冊である。

最初は,マフラーをして防寒服のお兄ちゃんが虫取り網を持ってさっそうと家を出ていく場面。

そのおにいちゃんにボクは「あみなんてもってどこいくの?」とふしぎがる。興味深くぼくも

くっついていく。運良く暖かい日よりに助けられ冬の街中でも小さな虫が飛びまわっていた。

「ほーら、いた。いた。」「えっ ほんと?なにが いたの?」

とこんな会話から始まる。ヒラタアブやクマバチのゲットだ。

やがて近くの里山へ。コナラの樹木につけられていた標識をめくるとたくさんのテントウムシ

が現れる。枯れ木を見るとイラガやミノムがいる。池のまわりではウラギンシジミやキタテハ

の成虫がじっと越冬している。倒木をけとばすと…。次々と生きものが見つかっていく楽しい

探検物語である。                   2014,10刊  1,300

 

『暗闇の釣り師 グローワーム』(たくさんのふしぎ)

小原嘉明/文 石森愛彦/絵 福音館書店

世界中に不可思議な生き物がいることが時々この『たくさんのふしぎ』で紹介される。この

『暗闇の釣り師 グローワーム』もその一つである。場所はニュージーランドにある洞窟の中。

なんと洞窟の天井に満天の星のごとく光り輝く虫が棲んでいる。その名はヒカリキノコバエとい

うハエの仲間だそうだ。天井の上部でたくさんの糸をたらしその中に巣をつくっている。その幼

虫のおしりに発光器官があり暗闇の洞窟で光を出している。なんとも幻想的な光景である。

ページをめくると,全面がまるで玉すだれのようにたくさんの糸がたれさがっている場面が飛び

込んでくる。これが幼虫の仕業か?と一瞬とまどってしまう。グローワームの幼虫はこのすだれ

に獲物が飛んでくるのを待ち受けているのだそうだ。まるで網クモの世界だ。

やがて著者はニュージーランド大学に勤務することになり,ますますグローワームの研究に取り

組むようになる。まずグローワームの観察用筒を作る。天井板に石膏をはりつけて湿った状態

を保つように工夫して自然の状態を保つ。石膏の天井にはなされたグローワームは巧みな動き

をくり返しながら編み目状の巣を作っていく。ある程度巣ができるといよいよすだれを作っていく。

こん身の力を込めて粘液を絞り出すとのこと。いくつもの玉を作っていくのだからエネルギーは相

当なもの。玉すだれに獲物がかかるとたくみに糸をたぐり上げる。粘液を大量にはき出して袋を作

りそこに自分の糞を入れることもするのだという。トイレ用袋まで作って用をたしている。なんとも

不思議な虫の暮らしである。適度な湿度と無風状態を保つ草原でも一面の「星空」(グローワー

ムの光)が見られる。「夢見るような光景」と著者は言う。行ってみたい衝動にかられる本である。

                  2014,11刊 1,400
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