わたし好みの新刊 2015年12月
『食べられて生きる草の話』(「たくさんのふしぎ」2015年10月)
高槻成紀/文 福音館書店
著者が長年,宮城県にある金華山で観察したシカとシバ草の関係をまとめた
記録がもとになっている。まずは,金華山の地形紹介から入る。金華山は,
10km2ほどの島に500頭ものシカが棲んでいるというかなり高密度のシカの
生息域となっている。次に,著者が調査に入った1975年頃の様子が描かれて
いる。シカの頭数もうんと少なく,地面をほとんど覆っていたのは…シバでは
なくススキだった。背丈も大きいススキが島の地面を覆っていた。ところが
1985年ではススキはどんどん背が低くなり,1990年にはススキは影を潜め,
シバ草が面積を広げるようになった。ここで,著者は疑問を持つ。ススキと同
時にシバ草もシカに食べられているのに,どうしてシバ草は増えているのか。
このことをつきとめるために,著者は大学構内でシバを植え,10cm四方の中
だけをハサミで刈り取りシバの生育を見たり,ススキも刈り取ってススキの
生育も見る。3年後には見事な結果が出る。ススキはほとんど生育せず,刈
り取ったシバ草は青々と茂っていた。植物界では知られていることなのだが,
シバは地下茎を持っていて刈られたらまた芽を出す習性なのだ。金華山では,
シカが日光を遮るススキを食べ,シバ刈りの役目も果たしていたというわけ
である。ここで,さらに著者は「シバ草の種はそんなに飛散する構造ではな
いのに,どうしてこんなに広がるのか」と疑問を持つ。著者は,さらにシカ
の役割を考えて実証していく。さて,シカはシバ草を食べる(刈る)と同時
に,どんな役目をしていたのでしょうか。「40年前には聞こえなかった自然
の話が今ははっきり聞こえます。」と著者は結びに書いている。別書でこの
著者の『唱歌「ふるさと」の生態学』(山と渓谷社)もなかなか楽しい本で
ある。 2015,10刊 667円
『タンチョウのきずな』 久保敬親/写真と文 小学館
著者は30年あまり北海道に通い,野生動物の姿を撮り続けているうちに,
タンチョウの優雅な姿の虜になってしまった写真家である。住居も北海道に移
し今も北海道タンチョウの姿を追い求めている。題名が「タンチョウのきずな」
となっている。美しい写真と同時にタンチョウの「きずな」がクローズアップ
されている。それに,なんといっても写真が素晴らしい。タンチョウの姿がた
っぷりと楽しめる本である。
まず,凛とした寒さの中で眠るタンチョウの姿が幻想的に映し出される。長
い首をつばさの中に入れて一本足で立って眠る。やがて,目覚めたタンチョウ
は一斉に給餌場に向かう。ここでは,人間が餌をまいてタンチョウの餌場にし
ている。絶滅寸前のタンチョウが地元の人たちの保護活動で生き続け,今は
1500羽にも増えているという。次に出てくる写真は,春が近づくと見られる
2羽のダンス。〈けっこん〉の儀式である。文には「つがいのきずなは、どち
らか死ぬまで一生続きます」とある。やがて春が近づくと,2羽のタンチョウ
は仲良く繁殖地に向かう。
やがて,まだ雪が残る春になると,2羽のタンチョウは湿原で巣づくりをす
る。枯れたヨシ原での子育てもペアでの共同作業だ。そして交代で卵をあたた
める。やがてヒナも2匹誕生。親鳥のつがいは,いつも雛をつれての散歩。食
べ物探しにも雛を連れて出る。親鳥2羽のあとを必死に追いかける2羽の雛の
姿がいとおしい。やがて羽も生え代わり成長した幼鳥は,いよいよ大空へ。親
子の「ペア」と「ペア」がそろって4羽,たくましく水面上を飛ぶ。そしてまた
迎えた寒い冬,仲間たちと給餌場につどう。タンチョウ一年のスクリーンが幕
を閉じる。〈あとがき〉で著者は「繁殖地である湿原の保全や、感染症対策とし
て冬の群れの分散化、電線事故や交通事故死など、保護していく上で、まだ多
くの課題が残されているのです。」と綴っている。
2015,07刊 1,300円(西村寿雄)
新刊紹介12月