わたし好みの新刊   20161

『稲と日本人』      甲斐信枝さく 佐藤洋一郎監修 福音館書店

 『ざっそう』(1972),『あしながばち』(1975),『ふきのとう』(2000)など,独自の

技法とやさしい口調で子どもの本を手がけておられた著者が,久しぶりの本を出さ

れた。過去10年間の研究成果だという。今回は,今までとは少し趣をことにした

稲作の歴史物語である。

 初めのページに「稲とわたしたち日本人は、動物と植物という/かけはなれた

間柄ではなく/生死をともにして生き抜いてきた、かけがえのない/仲間同士と

いう間柄なのです。」と語っている。前半は,そのテーマにそって克明に〈生死を

ともにして生き抜いてきた、かけがえのない仲間同士〉の長い歴史が描かれていく。

「焼き畑農業」から「水稲」へ,水稲は「日本人に夢のような暮らしを/運んで

くれたにちがいありません。」と語っている。ここで,「野生稲」の話が入る。

「イネ科」植物は数億年前から,地球の大変動をくぐりぬけて生き抜いてきたこ

とが記されている。

この後は,日本各地の稲作栽培にかかわる苦難の数々が描かれていく。浅間山

の噴火が大きく影響したという天明の大飢饉,害虫の発生が元になったという享

保の大飢饉,いずれも力強いタッチで描写されている。干魃も人々を苦しめてき

た。香川県の満濃池の話,箱根用水の話が語られていく。水を得るための苦難の

数々である。しかし,それらの苦難に人々は屈していない。良い稲作りへと苦心

に苦心を重ねる品種改良の話が入る。やがて「コシヒカリ」「ヒトメボレ」など

の品種の元が生み出される。

 ここで,話は一転する。国が関与してより収穫力の高い品種を作り出し,農薬

や化学肥料の力で米の収穫量を上げている話になる。そのことによるマイナス面

は書かれていない。これで終わっていいのだろうかの疑問がよぎる。久しぶりの

甲斐さんの絵本である。             2015,09刊 2,000

 

『太陽系探査の歴史』 

 Mary Kay Carson 有本信雄監訳 鈴木将訳  丸善出版

 この本は,長年の人類の夢であった宇宙開発について,その発端から近年のロケ

ット打ち上げまでの経過をくわしく紹介している。原著者はアメリカの女性ノンフ

ィクション作家で,自然や歴史に関する児童読み物を多数書いておられる。それだ

けに言葉も流暢で日本語訳も読みやすい。長文の本書も興味のある中学生なら興味

深く読んでいけるのではないか。

 内容は,「空を眺める」,「宇宙をめざすロケット技術」「月へ,そしてもっと遠く

へ」「惑星の探査」「外惑星に向かう」「宇宙望遠鏡と火星の探査車」「地球近傍天体」

「土星のリング」「火星の海など」「太陽系の外縁に向けて」と8省に分かれている。

人類が宇宙に夢を持つ時代から近年のロケット開発の失敗と成功の歴史を語っている。

 最初は,人類が宇宙の成り立ちを解明していく過程が語られる。ここでは望遠鏡が

主役である。やがて写真と分光器など新たな技術が導入され,満点の宇宙を人類は手

入れた。すると人類は宇宙旅行に夢をふくらませるようになった。その発端は,意外

SF小説だったという。やがてロケット打ち上げの実用化に進んでいく。いくつも

の失敗を重ねながら,まずはソビエト(ロシア)が月周辺に宇宙船を飛行させた。

さらに,遅れまいとアメリカが月に軟着陸して月探査も始めた。その後,アメリカと

ソビエト(ロシア)の宇宙開発競争が始まっていく。それらの経過が,くわしく語ら

れていく。長文ではあるが写真も豊富で読みやすく構成されている。ペシーの合間に

は,「ためしてみよう!」のコラム欄が設けられていて,ちょっとした実験も楽しめ

る。

本書でも書かれているが,宇宙開発はあくまで平和利用が目的であるはずである。

平和利用を脅かす社会にならないことを願いながら,この本を読んでいきたい。

                    2015,09  3,000(西村寿雄)

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