わたし好みの新刊   20163

『さかなだって ねむるんです』伊藤勝敏/写真 嶋田泰子/文  ポプラ社

写真の迫力が全ページに出ている「ふしぎいっぱい写真絵本」シリーズの一冊である。

海中写真のベテランと児童書読み物ライターの共作で,わかりやすい言葉と大胆な写
で子どもの心を引きつけそうである。しかも,テーマがおもしろい。さて,いったい
魚は,
どんな形でいつ眠っているのだろうか。まずカバー表紙に,奇妙な膜に覆われ
た魚が写
っている。う〜ん,なんだろう。卵嚢にしては大きすぎる。本文中に紹介さ
れているが,
ハゲブダイという魚が〈寝袋〉の中での睡眠中の姿という。どうやって
こんな〈寝袋〉を
つくるのか,本文が気になってくる。

 まあ,こんな〈寝袋〉を作って眠る魚はまずいなくて,たいていは,水中での微妙な

違いが見極めのポイントらしい。そこを写真家はうまくキャッチしている。

 まず出てくるのが「モヨウフグ」というふぐ。ダイバーが手でさわっても動かない。

〈ねむってからだをやすめている〉のだそうだ。次は,海底にへばりついて動かないヒ

ラメ。でも,夜の海も安心して眠っておれない。じっとお休み中のふぐの仲間が,横で

目を覚ましたトラウツボにパクリと飲み込まれてしまう。中には居眠り中に,砂の中に

眠っていた魚に食べられてしまう魚もいる。眠ることは,魚にとっては身の危険と裏腹

である。海の生き物の宿命だろうか。

もちろん,眠る魚たちは,それなりに危険回避術を心得ている。眠るときには,周り

の色に化けるとか,サンゴなどの隙間に潜り込むとか,砂中にもぐりこんだりと,なに

かと防御の術は心得てはいる。そのきわめつけが表紙のハゲブダイ。こちらは,自前の

カプセル作るというのだから高等術だ。もちろん,回遊魚などはそんな悠長なことをし

ていられない。こちらは,泳ぎながら眠るという特技でしのいでいる。

魚の眠り様も多種多様,知らない海中散歩が楽しめる。

   2015,09刊 1,400

 

『ミミズの謎』   柴田康平/    誠文堂新光社 

 こちらは,〈生き物の謎にせまる本〉シリーズである。このシリーズは,身近な生き物

研究のきっかけや,生き物の謎にせまる謎解きの楽しさが読み取れる。この本もそのよ

うな一冊である。

第1章は「1.ミミズ研究の始まり」で始まる。ミミズは,しばしばお目にかかるとは

いうものの,よほど特別な目的がないかぎり手に取ってみようとは思いにくい生き物で
る。しかし,著者はミミズの意外な光景に目がとまった。あるとき,本来地下にいる
ミミ
ズが,大量に路面でひからびている場面に直面する。「ミミズは,なぜ路面に出てく
るの
だろうか」,ここに著者の「なぜ」が始まった。疑問を解決する前に必要なことは,
数量
的な把握である。こうして,路上ミミズの科学的な研究が始まる。するとますます
ミミズ
の生活が見えてくる。つぎつぎと,ミミズの生き様が解説されている。時々,ミ
ミズが超
スピードで逃げていく光景に出くわすが,いったいミミズのどんな機能が働
のだろうか。
ミミズの体にどんな構造があるのだろうか。ほかに,ミミズの身のこなし
方,穴の堀り方
等,見ていると1年のミミズの暮らしぶりも見えてくる。なんと,月の
周期とミミズの出
現と関係しているのだという。まさか,土の中の生き物まで,月の周期
と関係するとは,
神秘的な生き物の世界だ。「ミミズはどのようにして月齢がわかるの
か」,その謎解きが
いろいろ模索されていく。

 2章は「2.光るミミズを求めて」となっている。ミミズが光る?蛍の間違いではと思

われなくもないが,ここでは,地上小動物発光体の謎解きが続いていく。3章は「3.ミ

ミズを研究してみよう」で,ミミズ研究の手ほどきが書かれている。この本を読んで,若

いミミズ研究者が出てくるといい。合間には「ミミズって鳴くの?」「いろいろなミミズ」

などのコラムが,ちりばめられている。                 

 2015,11  1,500

「新刊案内3月」