わたし好みの新刊   20167

『深く深く掘りすすめ!〈ちきゅう〉』  山本省三/文 くもん出版

 2005年に日本の地球深部探査船〈ちきゅう〉が竣工し,海底地質調査などめざ

ましい成果をあげている。その〈ちきゅう〉の建造計画から最近の掘削調査の成

果までまんべんなく語られている。文を書いているのは,『すごいぞ!「しんか

い6500」を書いた山本省三さん,文芸肌の執筆者で文章は読みやすい。

第1章は「地球内部を調べる研究」の経緯が書かれている。主にアメリカを中

心とした海底調査で海底の動きをとらえプレートの動きなどをつきとめていた。

やがて,日本の海洋掘削計画が動き出す。第2章「世界一の地球深部探査船をつ

くる」で,新造船設計の経過が語られていく。背の高いデリック(掘削やぐら)

から長い杭を打ち込むため長い間船を静止できる装置の開発が難問だったとか。

第3章では,著者が〈ちきゅう〉に乗った感想が書かれている。私も試乗したこ

とがあるが,デッキには鉄パイプが所狭しと収納されていて,まるで鉄工場の様

だ。〈ちきゅう〉で採集した試料は船内だけでは処理しきれないので,船外の施

設が用意されている。第4章に船外施設,コアセンターの紹介がある。ここでは,

深海から取り寄せたコアの分析や保管が行われている。泥の中から微生物を取り

出す技術はこのセンターで開発された。

第5章は近年の研究成果がくわしく書かれている。〈ちきゅう〉の近年の成果

は,なんといっても地下深くまで掘削して海溝型地震の震源地を突きとめたこと

にある。何度も失敗を重ねながらも東北地方太平洋沖地震の断層破壊地点のコア

も採集して,大津波の原因を解明した。今後はマントルに届く掘削をめざしてい

るという。マントルまでは1万メートルの杭がいる。壮大な夢に向かってつき進

む〈ちきゅう〉の今が堪能できる本である。

 2016,03刊 1,400

『田んぼのコレクション』  内山りゅう/写真・文   フレーベル館  

 「田んぼのコレクション」という書名にひかれた。田んぼにはさまざまなコレ
クションがいることを,写真家の目で多彩にとらえている。田んぼは米
を作り出
すところであるが,ほかにたくさんの生き物を育む場所,日本人の文化とくらし
を支えてきた場所,日本人のこころの風景を作ってきた場所,さらに洪
水を防い
できた場所,水を浄化してきた場所でもある。このような田んぼの魅力に著者の
カメラが追っていく。

 まずはじめに,見開きの美しい棚田が広がる。小さな蛇行流域をうまく利用し

た棚田だ。日本人の昔ながらの心の風景である。そのあと「田んぼの一年」が展

開されていく。紀南地方の季節ごとの稲作風景が映し出されていく。田植えには

5歳の子どももお手伝い,家族総出の風景が展開する。秋の収穫時は稲刈り,は

ざかけ,脱穀と忙しい日がつづく。こちらも家族総出のお仕事だ。冬には冬の作

業が待っている。

次は「田んぼは生きもののワンダーランド」,田んぼの生き物が続々と登場し

てくる。メダカ,イモリ,ドジョウにトノサマガエル,ケラにシマヘビとつづく。

後半には「田んぼのスターコレクション」として,タガメ,ゲンゴロウ,タイコ

ウチ,コオイムシなど,絶滅に近い生き物もご当地では健在だ。「田んぼとトン

ボのふか〜い関係!?」もおもしろい。トンボにとって田んぼはまさに命が育む

場所である。次に出る見開きの「田んぼの生態系」図はよくまとまっている。サ

ギ類を頂点に,生き物の食物連鎖が小動物までつづく。最後に「田んぼでつなが

る人と文化」がある。田んぼの周辺にある水路や池,林や森も,人と人とがつな

がってこそ維持できる。ここに独特の文化が生まれてくる。これからの農村問題

もしっかりと見据えて終わっている。 

2016,2月刊  1,600

            「新刊紹介2016,07