わたし好みの新刊   20169


『ナミブ砂海―世界でいちばん美しい砂漠』
 (たくさんのふしぎ5月号)

野村哲也/文・写真 福音館書店

 本のタイトルは「ナミブ砂海」,砂の海とある。本をめくると,色鮮やかな砂山が

飛び込んでくる。「こんな美しい砂漠もあるのか」とまず目をうばわれる。多様な砂漠

の景観が次々と続く。地図を見るとアフリカ西部の海岸に延々とナミブ砂漠は続いて

いる。世界には砂漠と言っても,礫や小石混じりの砂漠もあるという。しかし,ここ

ナミブ砂漠はきめ細かな砂だけの砂漠が延々と続いている。このような広い砂漠

30000q2以上)を砂海と言うらしい。このナミブ砂漠の砂は石英質99%とか,し

かも100万年以上もかけてたまり続け酸化鉄の影響で砂の色が赤色になったとある。

その赤色の砂漠に夕日に燃えるとさらにその「赤」が輝いて見える。

とはいえ,いつでもこの美しい赤色砂漠の光景に出会えるとは限らない。夕日の方向

が微妙に砂漠の色に影響する。著者は偶然に「赤」が色濃く輝くタイミングにでくわ

した。表紙と中程に出てくる「夕日がナミブ砂漠を深く染める」写真はいつまでも見

飽きない光景だ。

砂漠には砂漠地固有の生き物もいる。砂漠の樹間からヒョウが顔を出しているのに

は驚いた。ナミブは比較的雨量の多い地域で樹木も多いらしい。生き物にとってもオ

アシスとなっている。とはいえここは特異な砂漠でヒトデ型や星型の砂漠もある。こ

のような形は,風が四方八方から吹き付けている証拠だとか。そういう湾にはフラミ

ンゴがいたりして生き物には楽園のように見える。しかし,強い風で船をも取り込ん

でしまう「骸骨海岸」もある。「デッドフレイ」という死の世界もある。美しい世界

と恐ろしい世界が織りなすナミブの風景だ。      2016,05刊 667

 

『うまれたよ!ヤドカリ』武田晋一//写真 ボコヤマクリタ/構成・文 岩崎書店

 この本のシリーズキャッチフレーズに「よみきかせ いきもの しゃしんえほん」

「小さな生き物たちの誕生や成長の様子を大きな画面で展開。」「命のドラマを見てい

きます。」と書かれている。A4変形の大型本で,図書館などでは「絵本」のコーナー

に入れられていることもある。全文かな文字で文字も大きく文も短い。パッと見たと

ころ小学校低学年や幼児向けの簡単な写真絵本に入る。しかし,パラパラと見ていく

と子どもたちの読み聞かせに最適なスタイルであることに気づく。このような大きな

写真を前にすると,小学校高学年でも,いろいろと自分の知識を語り出すのではないか。

この『ヤドカリ』の最初のページを開くと,見開きで潮だまりの海岸が大きく広が

っている。次ページの広い水面下にヤドカリが一匹写っている。

「おおきな はさみを もった ヤドカリが、ちょこまか ちょこまか うごいている」

と,文がそえられている。次ページは,それぞれに小さな貝殻(メス)を持っている

ヤドカリが2匹大画面で大きく写されている。見ている子どもたちの前に,ぐっと大小

のヤドカリがせまってくる。次は,小さなヤドカリがたくさんのたまごを抱えている画

面にうつる。この本なら,プロジェクターなど使わなくても,迫力のある生き物が子ど

もたちの目の前に次々と展開されていくのではないか。

 この本のもう一つのテーマは「命のドラマをみていきます」である。交尾後に,オス

メス協力して子どもを生み育てていく姿や,脱皮をしながら,だんだんと大きく成長し

ていく姿が紹介されていく。ヤドカリは成長とともに身の丈に合った貝殻を見つけるこ

とが一仕事である。まさに,命をつなぐドラマである。この本の写真家の武田さんは

「有名な場所に出かけるより、身近で見落とされるような自然の魅力を伝えることに

こだわる」と書いている。このシリーズは,ごく身近な生き物が主役になっている。

                         2016,03  2,200

          「新刊案内2016,09