わたし好みの新刊   201610

『出発進行! 里山トロッコ列車』 かこさとし/作・絵 偕成社

 副題に「小湊鐵道沿線の旅」と書かれているように,ストーリーや沿線の

情報などは地元の人たちの支えがあって出来た本と思われるが,かこさとし

さんが90歳を超えてなおこのような絵を描かれることにまずは敬意を表した

い。従来の加古さんの本としてはものたりない内容であるが,ちょっと気楽

に千葉の鉄道の旅を楽しむのにはいい。今度千葉県に行ったときはこの本片

手にぜひ訪れてみたい場所となった。

 全国にある「トロッコ列車」として表紙裏には18もの路線が紹介されて

いる。しかし一口に「トロッコ列車」と言っても,黒部峡谷や嵯峨野鉄道な

どは大々的な〈観光列車〉として利用されているが,他はひっそりと地域の

〔足〕として活躍しているのではないだろうか。この本のモデルとして出て

くる房総半島の「小湊鐵道」では,観光列車「里山トロッコ列車」として

2015年から走るようになった。

この本では,トロッコ列車が運行されている「里見」駅から「養老渓谷駅」

までの,観光名所がかこさとしさんの絵で紹介されていく。神社やお寺の

ほか途中の自然景観も解説されていく。月崎駅近くには「77万年前の逆転

層」があるとか。地球の磁場(南北)はしばしば逆転しているが,その最後

77万年前の境目がここに出ているとか。図では,77万年前の地層はか

なり上のように描かれているが,どこかでその地層の上に立つことが出来

るのだろうか。

 まあ,沿線の諸々の話は軽く読み飛ばして,ずっと頁をくっていくと久々の

かこさとしさんの絵が楽しめる。各頁下に描かれている小さな生き物たちの絵

も心をなごませてくれる。所々に配されている四季折々の一頁大の絵は日本の

里山の風景を思い起こさせてくれる。        2016,05刊 1200

 

『地球の石ころ標本箱』  渡辺一夫著  誠文堂新光社  

 ことさら,子どもを意識して作られた本ではないが,世界各地の石ころが手

軽に見て楽しめる。文章は平易で,石好きの子どもであれば十分に楽しめる。

著者の渡辺一夫さんは,『集めて調べる川原の石ころ』(誠文堂新光社)など,

近年多くの日本の石ころ図鑑を発行されている。今度は,世界を巡る石ころコ

レクションの本となった。「はじめに」で,〈地球はひとつ!石ころ歩きに出発!〉

とタイトルで次のように書かれている。出会った石ころを手に取ってみよう。

少し時問をかけて見つめる。色、模様、形、質感、感触、それぞれに強烈な個性

があることに気づかされる。見つめなければ見過ごしてしまう発見に思わず驚か

される。…ほんのかけらにすぎないが石ころは、大地が自身のことをそっと伝え

ようとしている使者のように思えてならない。…さあ、地球の石ころ歩きに出発!」

と書かれている。

 この本では,世界各地の風景と石ころが紹介されている。まずは,フィンランド。

ラパキビと言われる花崗岩で赤みのあるカリ長石が目立つ。10数億年前の古い

岩体の石とか。所々に「くらべてみよう日本の石ころ」頁かあり,より親しみが

持てる。このラパキビ花崗岩は高知足摺岬にも出ている。ドイツには,最古の始

祖鳥の化石も出ている石版石灰岩が出ている。なんといっても雄大なのはイギリ

ス・シーフォードのチョークの海岸。フリントなどを取り込んだ白亜の岸壁が美

しい。フランスのロース川原にくるといろんな石ころが集まっている。韓国済州

島は玄武岩の島だが,釜山に行くとさまざまな石ころが点在する。インドネシア

・バリ島では,さすが火山性の玄武岩や安山岩の石ころが目立つ。モロッコは赤

い砂が固まった砂岩が主,めのうの石ころもあるとか。後半に,地質時代や石こ

ろの見分け方など簡単な解説がある。    2016,05  1,800 (西村寿雄)

 

             「新刊紹介2016,10